南極のネット環境はどうなっている?極地における通信環境の変遷と実態について
COLUMN | 2020.04.21
2020年現在を生きる人にとってインターネットは決して欠かすことのできないものです。
皆さんもPCやスマートフォンで動画を視聴したり、調べ物をしたり、はたまたブログを発信したり…。ネットの繋がる環境はもはや社会インフラの1つと言っても過言ではありません。
一方で平均気温が-20度を下回る極域、南極でも果たしてインターネットは繋がるのでしょうか?
今回は現代を生きる私たちだからこそ気になってしまう素朴な疑問の1つ、極域のネット環境について、日本の南極観測拠点「昭和基地」を例に詳しくご紹介します。
1 南極観測初期の通信環境はどんなものだったのか?
1-1 モールス信号が主流だった1960年代
南極観測行動が開始されて間もない頃、通信手段はなんとモールス信号が主流でした。モールス信号とは、モールス符号と呼ばれる符号化された文字コードを使って連絡を行うというもの。
「あ」から「ん」まで五十音や0~9までの数字を、短点(・)と長点(-)用いて表現する独特の方式に従い、伝達事項の送受信を行う必要がありました。
モールス信号の他にも、テレックスと呼ばれるキーボード付きの電話のようなものを使って連絡を取ることもあったと言われています。
1-2 1981年からは衛星回線「インサルマット」が普及
1981年からは、衛星回線「インマルサット」の導入がスタート。
インマルサットとは簡単に言ってしまうと、衛星回線の1つです。このインマルサットを使うことで、モールス信号のようなクラシカルな手段に頼る必要がなくなりました。
具体的には電話やファックスを24時間いつでも使えるようになったのです。
2 昭和基地でインターネットが繋がるようになったのは2004年
昭和基地でインターネットが使用できるようになったのは、2004年。1990年代のインターネット黎明期から一周遅れでようやくインターネットの環境整備がスタートしました。
いわゆる「パラボラアンテナ(ディッシュアンテナ)」と呼ばれる衛星アンテナが取り付けられ、昭和基地でもようやく通信衛星を受信できるようになったのです。
もちろん通信速度こそ十分ではないものの、遥か遠くの昭和基地と本土をリアルタイムで繋ぐことができるというのは、1960年代に使用されていたモールス信号と比較すると信じられないくらい大きな進化です。
現在はネット環境もかなり安定しているため、基地内の様子をブログで発信する観測隊員も多いのだとか。
他にも、今まで本土に帰還するまで見ることのできなかった観測データを送信できるようになったため、解析のスピードも飛躍的にアップしました。
現在、ネット環境は南極における観測・調査を加速させる上で決して欠かすことはできない存在といえるでしょう。
3 昭和基地内でのネット利用には制限も多い
前述した通り、昭和基地内でもインターネットは問題なく利用可能です。基地内はWi-Fiも飛んでいるため、有線のlanケーブルを使う必要もありません。
ただし、無制限に利用可能というわけでは無く、基地内でのネット利用には制限もあります。
例えば動画配信サイトを通じて、お気に入りのミュージックビデオをストリーミング再生は原則として禁止されています。
他にもデータ節約モードを使用しなくてはならなかったり、オペレーションソフト(OS)やアプリケーションの自動更新はOFFにしておかないといけない等々、意外と制約も多め。
通信速度も一般的な家庭のルーターと比べると低速で、ウェブページの閲覧も若干ながら時間がかかってしまうのだそう。制約こそ多いものの、ネット環境すらなかった頃と比べれば贅沢は言えないかもしれませんね。
4 南極観測船「しらせ」の中はインターネットに接続できる?
昭和基地ないではいくつかの制約の中でネットを利用ができるということが分かりました。では、昭和基地までの往復に使用する南極観測船「しらせ」の船内ではどうでしょうか?
実は、しらせの船内でも一応のインターネット環境は整備されています。
しかしながら、通信速度は昭和基地とは比にならないほど遅く、利用できるのも基本的にはメールの送受信のみ。その上メールの送受信に関しても、隊員1人あたり月3MB(メガバイト)という厳しい制限が課せられています。
そのためデータ量の大きい画像などを送受信することは基本的にできません。もし3MBを超えてしまった場合には、翌月まで使用が制限されてしまいます。
ちょっと不便かもしれませんが、小さな衛星通信(インマルサット)の限界です。とは言ってもデータ量さえ大きくなければメールのやり取りはできるため、観測隊員たちにとって欠かすことはできません。
南極でもインターネット環境は必要不可欠
今回は、南極におけるインターネット環境について詳しくご紹介しました。
昭和基地でインターネットが繋がるようになったのは2004年と比較的最近の話なのです。
容量の制限やストリーミングの禁止などネット利用に関する制約こそ多いものの、モールス信号やテレックスを使用していた1960年代から比較すると、驚くほど通信技術も進歩していることがよく分かります。
最早、南極においてもインターネット環境は必要不可欠な存在と言えるでしょう。
今後も通信技術の発展に伴い、昭和基地内でサクサクと快適にネットを楽しむことができる時代が訪れるかもしれません。