南極条約とは?南極の平和利用に欠かせないルールのお話

2019.10.10 | COLUMN

 

オーストラリア大陸の2倍以上に相当する約1400万km²という広大な面積を誇る南極。

これだけ大きな大陸でありながら、南極は特定の国、企業、個人が領有または所有しているわけではありません。

普通なら氷層に眠る膨大な資源や周辺の経済水域を巡って、国際的な領土紛争が起こってもおかしくはないでしょう。

実は、現在のような「誰の所有にも属さない」の状態を実現する上で非常に重要な役割を果たしてきたのが、本記事のメインテーマである「南極条約」と呼ばれる国際間の取り決めです。

今回は、そんな南極条約について、条約の内容はもちろん、条約締結に至るまでの経緯と変遷や、違反したらどうなるのか?といった観点も含めわかりやすく解説いたします。

1 南極条約とは?

南極条約とは?

そもそも南極条約とは、どのような取り決めなのでしょうか?その概要を確認していきましょう。

1-1 「南極の平和的利用」について定めた条約

南極条約とは、科学的調査の自由と南極の平和的利用を主たる目的として1959年に定められた条約のことです。

ご存知の通り、南極は人が住み続けるにはあまりに過酷な環境です。そのため長らくの間、南極はどこの国にも属さない「無主の土地(無主地)」として扱われてきました。

しかしながら無主地は、国際法における「先占の法理」により、先にその土地を支配した国が自国の領土として編入することができてしまいます。要するに「早い者勝ち」というわけです。

特定の国が南極の領有し、氷層や周辺水域に眠る膨大な資源を独占すればそれこそ大規模な紛争へと発展しかねません。

南極条約はそんな各国の私利私欲を排除し、「みんなで平和に利用していこう」という意図から締結された条約なのです。

1-2 締約国は合計54ヶ国に登る

南極条約事務局の公開している2019年のデータによると、南極条約の締約国は合計54ヶ国にも登ります。

中でも、南極で観測基地を設営したり、南極に関する学術的な調査を積極的に行なっている国は「南極条約協議国」とも呼ばれています。締約国中(54ヶ国中)29ヶ国が協議国で、日本もこの一員。

他にもアメリカ、フランス、ロシア、オーストラリア、ベルギー、ペルー、スウェーデンといった国も、南極条約協議国のメンバーです。

南極条約協議国に属する国は「南極条約協議国会議」にて積極的に情報を交換し、南極に関わる様々な決議や勧告を採択します。

のちほどご紹介する、「南極のあざらしの保存に関する条約」や「環境保護に関する南極条約議定書」も、この協議国会議にて決定されたものです。

2 南極条約締結までの経緯と変遷

南極条約締結までの経緯と変遷

南極条約の概要についておさらいしたところで、ここからは南極条約締結までの経緯と変遷を見ていきましょう。

2-1 当初、領土権の主張が飛び交った南極

冒頭でも説明した通り、南極はその過酷な自然環境から人間の定住に適さないため、長らくの間「無主地」として扱われてきました。

しかしながら、あの広大な大陸を各国がいつまでも放っておくわけがありません。

1908年になると、イギリスが南極地域の一部に対して領有権を主張します。これを皮切りに、ニュージーランド、フランス、ノルウェー、オーストラリアなど様々な国が自国の領有権を主張し始めました。

もちろん、各国の主張は南極の一部地域に限られるものではありましたが、主張する地域が重なり、国際的な紛争の火種が生まれることもあったのです。

2-2 クレイマントとノン・クレイマントの対立

イギリス、ニュージーランド、フランス、ノルウェー、オーストラリアのように、南極に対して領有権を主張する国家を学問上「クレイマント」と呼びます。

それに対して、自国他国共に南極に対する領有権の主張を認めない国を「ノン・クレイマント」と呼び、日本、アメリカ、ロシアといった国々はこのスタンスでした。

自国の領有権を主張するクレイマント、そして自他共に領有権の主張を認めないノン・クレイマント。この対立する2つの考え方は、大規模な国際紛争を発生させる可能性も十分あったのです。

緊張した状況が続く一方で、研究者たちの間では「南極を共同研究の場しよう」という機運も徐々に高まり始めていました。

2-3 IGYをきっかけに条約締結へ

条約化のきっかけとなったのが、1957〜58年の「国際地球観測年(International Geophysical Year)」通称「IGY」と呼ばれる国際科学研究プロジェクト。

このプロジェクトでは、クレイマント、ノンクレイマント問わず各国が研究のために基地を設営し相互に協力することになります。

このIGYにおいて、研究成果はもちろん体制自体が過去に例を見ないほど高く評価されました。この協力体制がこれから先も継続していく必要がある、そんな思いから発案されたのが南極条約だったのです。

1959年5月に条約が起草され、12月1日に12ヶ国が調印、1961年に発効するに至りました。

条約は14条で構成され、「南極の平和目的利用(第1条)」「科学調査の自由(第3条)」「領土権の凍結(第4条)」「核実験の禁止(第5条)」などが主たる項目です。

3 南極条約体制の確立

南極条約協議国会議によって採択された各条約や議定書による体制を「南極条約体制」と呼んでいます。

先ほども説明した内容のおさらいになりますが、南極条約協議国会議とは積極的に情報を交換し、南極に関わる様々な決議や勧告を採択する会議のこと。

南極条約体制を構成する条約や議定書としては、以下のようなものが挙げられます。

3-1 南極のあざらしの保存に関する条約

1972年に締結されたのが「南極のあざらしの保存に関する条約」。

その名の通り、南極に生息する、みなみぞうあざらし,ひょうあざらし,ウェッデルあざらしを始めとしたあざらしの保護と生態系の均衡維持が目的となっています。

毎年3月1日~8月31日の間は、南緯60度以南の海域におけるあざらしの猟獲を禁止。また猟獲する場合も、科学調査目的に限られ、なおかつ「迅速にかつ苦痛を与えることなく」捕獲しなくてはなりません。

3-2 南極の海洋生物資源の保存に関する条約

1980年に締結されたのが、「南極の海洋生物資源の保存に関する条約」。

前述した「南極のあざらしの保存に関する条約」よりも範囲が広く、南極大陸を囲む海洋生物資源を守り本来の生態系を維持することを目的として締結されました。

例えば、「対象となる資源を採る際に、その資源量が安定した加入を維持できる水準を下回らないようにする」といったかなり細かい部分まで定められています。

3-3 環境保護に関する南極条約議定書

1991年に締結されたのが、「環境保護に関する南極条約議定書」。

主に南極の環境と生態系を包括的に保護することを目的としており、日本国内ではこの議定書の内容を具現化するために「南極地域の環境保護に関する法律(南極環境保護法)」が制定されました。

この法律により現在、南極における活動は一部を除いて予め環境大臣への確認申請書の提出が必須となっています。

4 南極条約に違反するとどうなる?

南極条約に違反するとどうなる?

国際間の取り決めであっても、破られてしまうこともあります。南極条約も例外ではありません。

では仮にある国が南極条約に違反した場合、その国に対して一体どのような措置が行われるのでしょうか?

4-1 南極条約自体にペナルティは規定されていない

実は南極条約自体に、具体的なペナルティについては何も規定されていません。

確かに10条には「各締約国は、いかなる者も南極地域においてこの条約の原則または目的に反する活動を行わないようにするため、国際連合憲章に従った適当な努力をすることを約束する。」とありますが、これはどちらかというと道義的な宣誓に近いもの。

もし解釈や適用に関して紛争が生じた場合には、国際法の原則に従って解決されることとなります。場合によっては、国際司法裁判所に付託することもありうるでしょう。

ただしこれはあくまで南極条約の話。南極条約体制下で整備された各条約や議定書に違反した場合は、罰則が課されることもあります。

4-2 国際的非難の的になる可能性はある

南極条約自体に具体的な罰則が規定されていないにせよ、条約という国家同士の誓約を破った以上、国際的非難の的になる可能性はあります。

そもそも南極条約は、南極の平和的利用を目的として定められた条約の1つ。

例えば、ある締約国が突然南極地域の領有権を主張し始め、勝手に軍事施設を作ったとしましょう。締約国はもちろん、世界中の国から激しい非難を受けることは容易に予想がつきます。

「条約を破る国」として国際的な信用を大きく失うことになるのは間違いないでしょう。

南極条約下では今後も「無私の国際協力」が鍵に。

南極条約の第4条には、「領土権の凍結」について定められた条文が存在します。ここで重要なのは、「放棄」ではなく「凍結」であるということ。

凍結とは要するに一時的なもので、いずれの締約国も南極の領有を恒久的に放棄したわけではないのです。

喉から手が出るほど欲しい南極の領有権を主張せず、「無私(私欲のない)」の国際協力を継続できるかどうかが、南極の未来を大きく左右すると言えるでしょう。

素晴らしい大自然を未来へと引き継ぐために、南極条約は今後も守り抜かなればなりません。

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