北極評議会とはどんな組織?加盟国や役割をわかりやすく解説

COLUMN | 2020.02.25

南極は南極条約と呼ばれる国際的な取り決めによって平和的利用が義務付けられているのに対し、北極に関しては未だ包括的な条約は存在しません。

一方で、北極には「北極評議会」と呼ばれる国際的な機関が置かれていることをご存知でしょうか?

1996年に発足されてから20年以上経過しているのにも関わらず、その存在意義や役割についてメディアで取り上げられる機会は多くありません。

そこで本記事では、北極を支える影の立役者「北極評議会」にスポット当て、その概要や加盟国、そして意外と知られていない役割の詳細を中心に詳しく解説していきます。

1 北極評議会とは?

北極評議会とは?

北極評議会とは、北極の持続可能性に配慮した開発と環境保護に関するトピックについて話し合う国際的な協議機関の1つ。「AC」という略称で呼ばれることもあります。

1996年、オタワ宣言(北極評議会の設立に関する宣言)に基づいて設立されました。

メインとなる加盟国は、北極圏に位置する計8ヶ国。そこに、北極地域の先住民団体(常時参加者)、そして出席と発言を行うことの認められた「オブザーバー」が加わります。

基本的に扱う議題は、資源開発や環境問題に関するトピックが中心。軍事や安全保障に関わる話を、北極評議会で扱うことはありません。

共通の議題について定期的に話し合いの場を設けることで、国同士のスムーズな連携と協力を促進する意図があります。

2 北極評議会の構成メンバー

北極評議会の構成メンバー

北極評議会の構成メンバーは、加盟国、常時参加者、そしてオブザーバーの3つ。どこに属するかによって、決定権などの範囲も変わります。

2-1 加盟国

北極評議会の主要メンバーとなるのが、「加盟国」です。

現在、加盟国はカナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、アメリカの計8ヶ国。

主要な意思決定は全てこの加盟国によって行われています。逆に加盟国以外の構成メンバーは、各種意思決定を行う権限を持っていません。

2-2 常時参加者

北極圏に位置する国に住まう先住民団体は、「常時参加者」とされています。北極評議会に参加する、先住民団体は全部6つです。

  1. アリュート国際協会
  2. 北極圏アサバスカ評議会
  3. グイッチン国際評議会
  4. イヌイット極域評議会
  5. ロシア北方民族協会
  6. サーミ評議会

それぞれアリュートやイヌイット、グウィッチンやサーミといった歴史ある先住民族の名称を冠した組織が多く見受けられます。

前述した加盟国とは違って意思決定権こそ持っていません。一方で、かつての北極と現在の状況をよく知っている分、彼らの発言には一定の影響力があるとされています。

2-3 オブザーバー

加盟国や常時参加者の他に「オブザーバー」と呼ばれる国や組織も北極評議会への参加が認められています。

オブザーバーとは簡単に言ってしまうと、「議決権を持たない傍聴者」のこと。なので北極評議会に出席こそできるものの、加盟国のような議決権は有していません。

またオブザーバーとしての参加の可否は、加盟国によって決定されます。

現在は日本、フランス、ドイツ、ポーランド、スペインといった非北極圏国の13ヶ国、そしてICESやIFRC、SCPARといった政府間組織14団体、さらにNGOのうち12団体もオブザーバーとしての参加が認められています。

3 北極評議会の主な役割

北極評議会の主な役割

北極評議会の役割は、大きく分けて2つ。1つ目は、北極海の環境や生態系の保護を行うために各国の協力を促進すること。

そして2つ目は、北極地域の経済的または商業的な開発に伴う諸問題に対応できるよう調整を行うことが挙げられます。

とは言っても北極評議会はあくまで政府間のフォーラムという位置づけであり、加盟国等が直接的に問題を解決するよう具体的なアクションを起こすわけではありません。

実際に問題を調査したりプロジェクトを推進するのは、下部組織であるワーキンググループと呼ばれる作業部会、そして短期集中的な問題解決を行うタスクフォースと呼ばれるチームです。

現在も、北極圏汚染物質行動計画作業部会(ACAP)や北極圏海洋環境保護作業部会(PAME)といった作業部会が、プロジェクトを推進すべく活動を行なっています。

4 北極評議会がこれまで成し遂げてきた成果は?

北極評議会がこれまで成し遂げてきた成果は?

では北極評議会を通じてどのような成果がもたらされてきたのでしょうか?

大きな成果として挙げられるのは、2011年に締結された北極捜索救助協定(SAR)、そして2013年の北極海油濁汚染準備対応協定(MOPPR)と呼ばれる2つの条約です。

本来、北極評議会の下した決議に法的な拘束力はありません。その一方で一定の「影響力」があることは確かです。

前述した北極に関する2つの条約も、評議会で採択されたわけではありませんが、結果として本評議会加盟国の関係閣僚によって条約の署名が行われました。

他にも各国の政策における意思決定において、北極評議会の下した数多くの決議内容が参酌された可能性もあります。

北極評議会は、間接的に各国の政策決定のプロセスに影響を与えることで、北極の環境保護や開発に伴う諸問題の調整に大きく寄与してきたと言えるでしょう。

今後、北極協議会の存在はより一層重要に

北極圏には、地球に存在する天然資源のうちの20%に相当する凄まじい量の資源が埋まっていると言われています。

北極の氷の溶解が進むにつれて各国が開発へと乗り出す昨今、北極の環境を保護し、商業的な開発に伴う諸問題を調整する役割を担う北極評議会の重要性は、より一層増すことが予想されます。

確かに、同評議会は軍事や安全保障の分野について直接話し合いをすることこそありません。

しかしながら、資源開発とその権益に関する諸問題は、国際的な緊張を高める大きな原因の1つでもあります。

北極評議会が各国間を調整し協力を促すことによって、軍事的な衝突を未然に防ぐことに繋がるかもしれません。

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