南極の息吹「ブリザード」。そのメカニズムと脅威を知る
COLUMN | 2019.10.22
極寒の地に吹き荒れる猛吹雪、「ブリザード」。
南極では頻繁に発生する気象現象の1つですが、都会に暮らす私たちにとってはなかなか想像しづらいものです。
しかしながら、実際に南極の観測を行う人(南極地域観測隊)にとってブリザードは命をも脅かす恐ろしい存在の1つ。過去には観測行動中に命を落とした人もいるほど、非常に危険な現象なのです。
今回は、そんな「ブリザード」の発生メカニズム・気象条件、更には実際にブリザードに遭遇してしまったらどうなるのか?といった視点を中心に、大自然の猛威の恐ろしさについて解説いたします。
1 ブリザードとはどんな気象現象なのか?
ブリザード(blizzard)とは、簡単に言ってしまうと「猛烈な風を伴う吹雪」のこと。
本来は、アメリカやカナダで発生していた強風を伴う吹雪のことを指すものでしたが、最近では単に暴風雪のことをブリザードと表現することもあります。
単なる大雪とは異なり強い風を伴うため、視程(肉眼で物体を認識できる距離)も悪化し、場合によっては前に進むことすら困難な状態に陥ることも。
厳密な定義は各国によって異なりますが、アメリカの気象局では「風速約14m/s以上、かつ視程150m以下の暴風雪」をブリザードと定義しています。
2 ブリザードが起こるメカニズム・気象条件
ブリザードは、例えば竜巻のように特殊なメカニズムに基づいて発生しているわけではありません。ブリザードを発生させる要素はとてもシンプルで、大きく分けて「降雪」と「暴風」の2つ。
激しい降雪に加えて、猛烈な風が吹くことでブリザードが発生します。
またブリザードの特徴としては、地面に積もった雪が強風によって吹き上げられる「地吹雪」と呼ばれる現象も起こるという点が挙げられます。
この地吹雪によってあたり一面が真っ白になるため視程も大きく下がってしまうのです。各国のブリザードの定義に「視程」の基準が設けられているのも、この地吹雪の度合いを測る意図があります。
3 ブリザードには「グレード」がある
ハリケーンや竜巻のように、ブリザードにもその強さや継続時間に応じた「グレード」というものが存在します。
南極の地質や生態観測のために派遣される南極地域観測隊の昭和基地では、「視程」「平均風速」「継続時間」の3つの基準に基づき、ブリザードをA〜Cの3段階に分類しています。
3-1 C級ブリザード
「平均風速10m/s以上、視程1km未満、継続時間6h以上」のブリザードは、C級に分類されます。
ブリザードの階級の中では最も弱いものではありますが、だからといって油断できるものでは全くありません。現地に派遣された南極地域観測隊の行動も制約されます。
南極では小さな油断が命取り。たとえC級ブリザードであっても、慎重に行動する必要があるのです。
3-2 B級ブリザード
「平均風速15m/s以上、視程1km未満、継続時間12h以上」のブリザードは、B級に分類されます。
前述したC級ブリザードよりも風速が5m以上強くなる上に継続時間も長くなるため、現地の観測隊員の活動にも大きな影響を与えるレベルのブリザードです。
体感温度も-40度近くに達するため、非常に過酷な状態と言えるでしょう。
3-3 A級ブリザード
「平均風速25m/s以上、視程100m未満、継続時間6h以上」のブリザードは、A級に分類されます。
3つある階級の中で最も強く、とりわけ風速に関しては大型台風に匹敵するレベル。視程もかなり悪くなり、50〜100m先すら真っ白になってしまって見えなくなることもあります。
これがいわゆるホワイトアウトと呼ばれる現象です。この状態で野外での観測活動を行えば、最悪の場合、隊員が命を落とす危険性もあります。
4 南極で吹くブリザードは特殊な「カタバ風」
とりわけ南極で吹き荒れるブリザードは、通常のブリザード区別して「カタバ風(katabatic wind)」と呼ばれます。
日本語だと「滑降風」や「斜面下降風」とも呼ばれ、地表近く空気が冷やされることによって重くなり、標高の高い所から低い所へ向かって流れ落ちるように吹き荒れる現象のことです。
このカタバ風は非常に強く、風速40m/sもの凄まじい強風が数日に渡って吹き続けることもあります。
まさに南極という地球の極地ならではの大自然の猛威です。
5 ブリザードに遭遇してしまったらどうなるのか?
日本の都会に住んでいる限り、ブリザードに遭遇するなんてことはまず考えられません。では仮に、自分自身がブリザードに遭遇してしまったら一体どうなってしまうのでしょうか?
先ほどご紹介したブリザードのグレード(A〜Cの階級)にもよりますが、まず強い風と猛吹雪によって前に進むことすら困難な状況に陥ります。
猛烈な地吹雪によって視程も大きく低下するため、目の前が真っ白になってしまうこともあるでしょう。気温と風の影響で体感温度も著しく低下します。
極地を知り尽くしたプロの観測隊員ですら、ブリザードの中を進むのは困難であると判断し、停滞するまではテントを張って過ごすこともあるほどです。
どんなに晴天であっても大自然の気候は予測不可能なもの。万が一ブリザードに遭遇してしまった場合には、身の安全を第一に行動するのが定石です。
恐ろしくも美しい。極地の大吹雪、ブリザード
今回は恐ろしくも美しい大吹雪、ブリザードについてそのメカニズムやグレードを中心に解説しました。
特に南極で吹き荒れるカタバ風は猛烈で、立っていることすら困難になることもあります。
都会で暮らす人にとっては縁のない話かもしれません。しかし、実際に現地を探検したり観測を行う隊員にとって気象状況、とりわけブリザードの発生は命に関わります。
凄まじい雪と風の吹き荒れる極地において、自然が私たち人間の命を奪うことなど造作もないこと。そんな過酷な状況だからこそ挑む価値があるのかもしれませんね。