世界の屋根「ヒマラヤ山脈」が第三の極地と呼ばれる理由
COLUMN | 2020.05.04
一面分厚い氷床に覆われた南極や北極の他にも、「極地」と評されるような特殊な環境がこの地球には存在しています。その1つが、ヒマラヤ山脈です。
ドイツ人のヒマラヤ探検家として知られるギュンター・ディーレンフルト氏は、極寒地にそびえ立つ急峻なヒマラヤ山脈を「第三の極地」と形容したほど。
中でもエベレストを始めとした世界最高峰の山脈は、チャレンジングなアルピニストたちとっても非常に神聖な場所です。
今回は、そんなヒマラヤ山脈について地理・気候を始めとした概要を押さえつつ、ヒマラヤ山脈の誕生したメカニズムや現在抱える環境問題に至るまで詳しくご紹介します。
一般的に「ヒマラヤ」という単語1つで括られがちなヒマラヤ山脈の全貌を明らかにしていきましょう。
1 そもそも「ヒマラヤ山脈」とは?
1-1 「世界の屋根」とも称されるヒマラヤ山脈
ヒマラヤ山脈とは、世界最大の高原地帯として有名なチベット高原とインド半島を間を隔てる無数の山脈郡のこと。
標高7,000メートルを超える圧倒的なスケールの山々が連なることから、「世界の屋根」と呼ばれることも。
ちなみに地球上でたった14座しか存在しない8,000m級の山の全てが、ヒマラヤ山脈と隣接するカラコルム山脈に集中しています。
1-2 緑豊かな熱帯からツンドラ地帯まで幅広い自然を抱える
ヒマラヤというと一面雪景色を想像してしまいがちですが、実は緑豊かな熱帯から皆さんの思い浮かべる高山のツンドラ地帯まで幅広い自然を抱えています。
例えば、ヒマラヤ山脈の中でも中高度一帯には、背丈の高いヒマラヤ落葉樹林が生い茂っています。
“圧倒的なスケールの山脈がいらかを連ねるヒマラヤ山脈”という一般的なイメージからすると、拍子抜けしてしまうかもしれませんが、この豊かな自然もまたヒマラヤ山脈の魅力の1つです。
2 ヒマラヤ山脈では海洋生物の化石が見つかる?
実はヒマラヤ山脈は「山」であるにも関わらず、「海」の生物の化石が見つかることでも知られています。その理由は、ヒマラヤ山脈の成り立ちにありました。
ヒマラヤ山脈は、人類の生まれる遥か昔、南半球にあったインド大陸が北へと移動したことがきっかけとなって誕生したと言われています。
ゆっくりと時間をかけて移動したインド大陸は、今からおよそ5000万年前頃にユーラシア大陸と衝突。この大陸同士の衝突によって元々は海に沈んでいた部分が大きく隆起し、巨大なヒマラヤ山脈を生み出したと考えられているのです。
そのためエベレストを始めとしたヒマラヤ山脈からは、海に生息していた古代の生物の化石が見つかることもあります。
「山脈で海洋生物の化石が見つかった」と言われると首を傾げてしまいそうですが、元々は海底だった部分が隆起して生まれたというメカニズムさえ理解していれば納得できるはずです。
3 ヒマラヤ山系の最高峰「エベレスト」頂上は極限の世界
言わずと知れた世界一位の標高を誇る名峰「エベレスト(チョモランマ)」も、実はヒマラヤ山脈に属する山の1つです。これまで数多くのアルピニストたちもこの名峰に挑み、そして登頂を成し遂げてきました。
そんなエベレストの頂上は、まさに極地と呼ぶにふさわしい世界。
登山をしたことのある方はすでにご存知かもしれませんが、標高が高くなるにつれて空気中の酸素もどんどん薄くなっていきます。
エベレストの標高は世界で最も高い8,848m。空気中に含まれる酸素の量は、私たちの生活している地上と比較すると1/3程度。
非常に薄い酸素に加え、年間を通してマイナス20度を大きく下回る酷寒、そして冬場に吹き荒れる強い偏西風。その頂上には、まるで人間の生存を拒絶するかのような極限の世界が待っています。
4 実はヒマラヤ山脈には”登ってはいけない山”もある?
「ヒマラヤ山脈」という単語を耳にした時、真っ先に過酷な登山をイメージする方も多いのではないでしょうか?
確かにヒマラヤ山脈は、言わずと知れたアルピニストたちの聖地です。しかしながら、そんなヒマラヤ山脈にも“登ってはいけない山”があります。
例えばブータンに存在するガンカー・プンスムと呼ばれるヒマラヤ山脈系の名峰は、ブータン政府により登山が全面的に禁止されています。
「高い山には神々が宿っている」という周辺地域の山岳信仰が禁止の主な理由です。
他にもインドのヒンドゥー教では、ヒマラヤ山脈は「ヒマヴァット神」として神格化されています。ブータンのように登山禁止こそされていないものの、敬虔な人々の間では神聖視されている場所なのです。
このようにヒマラヤ山脈は単なる山脈という枠を超え、人々の文化と密接に結びついていることがよく分かります。
5 ヒマラヤ山脈の抱える深刻な環境問題
美しく雄大なヒマラヤ山脈ですが、近年は地球温暖化の影響を大きく受けています。
中でもエベレストを始めとした8,000m級の山々が連なるヒンドゥークシュ地方の氷河は、年々溶解のペースが加速していっているのだそう。
このまま氷河が溶解し続ければ、途方もない時間を変えて生み出された美しい大自然が失われるだけでなく、溶けた氷によって洪水や地滑りといった自然災害を引き起こすことも考えられます。
仮にヒマラヤ山脈周辺の氷河が全て溶解した場合、世界規模での海面上昇や気象変動に見舞われる可能性も。
地球温暖化に伴うヒマラヤ周辺の氷河溶解がもたらす被害の大きさを理解し、世界各国が協力しあいながら適切なアクションを起こしていくことが期待されています。
ヒマラヤは南極と北極に次ぐまさに「第3の極地」
今回は、8000m級の山々のそびえ立つヒマラヤ山脈について詳しくご紹介しました。
著名なヒマラヤ探検家の1人、ギュンター・ディーレンフルト氏の形容した通り、ヒマラヤ山脈は南極と北極に次ぐまさに「第3の極地」。
人々は急峻な山脈を神として崇め、そして時には頂上へと挑み、その存在に敬意を表してきました。
熱帯からツンドラ地帯まで幅広い自然環境を抱えるヒマラヤ山脈からは、大自然の素晴らしさと地球の雄大さを感じることができるはずです。