海氷に暮らす「アイスアルジー」とは?その生態について解説
COLUMN | 2020.03.24
南極や北極というキーワードを耳にした時に、皆さんはどのような動物の存在を思い浮かべますか?
例えば、南極であればヒョウアザラシやコウテイペンギン、北極であればホッキョクグマやホッキョクウサギなどをイメージする方も多いかもしれませんね。
このように代表的な大型動物は頭に浮かぶ一方、その大型動物たちの生態系を影から支える「アイスアルジー」の存在は意外と知られていないようです。
今回は、海氷の中でひっそりと暮らすアイスアルジーについて、その概要や生態系における役割を中心に詳しくご紹介いたします。
1 海氷で暮らす珪藻類「アイスアルジー」とは?
アイスアルジーとは、海氷の隙間で繁殖した珪藻類や微細な藻類の集合体こと。
小さな藻類たちが海氷中に存在する窒素やリンといった栄養素を消費して大量繁殖すると、その際に生じた光合成色素による茶褐色の層が出来上がります。
この茶褐色の層が、アイスアルジーと呼ばれるものです。
決して「アイスアルジー」という固有の生物がいるわけではなく、あくまで複数の藻類の集合体がアイスアルジーと呼ばれています。
2 アイスアルジーの住処「ブラインポケット」
アイスアルジーの繁殖にとって欠かせないのが、ブラインポケット。
ブラインポケットとは簡単に言ってしまうと、海氷中にできた隙間のこと。アイスアルジーのような小さな生き物たちの生息の場にもなっています。
ここで、ブラインポケットができるまでのプロセスもおさらいしておきましょう。
塩分を多く含む海水のうち水分だけが氷結すると、氷の中に塩分が濃縮された高塩分水(ブライン)が生成されます。このブラインは、ブラインチャンネルと呼ばれる通路を通って海氷の下層部分に運ばれ、やがて海氷から抜け落ちて行きます。
その結果、もともとブラインがあった場所が空洞になることで「ブラインポケット」が出来上がるのです。このブラインポケットは、アイスアルジーのような微細藻類たちにとっても非常に重要な空間であると言われています。
3 生態系におけるアイスアルジーの役割
海で暮らす生き物、そしてそれを捕食する大型植物たちにとってアイスアルジーの存在は非常に重要です。
アイスアルジーたちは始めのうちは海氷のブラインポケット内で大量に増殖したのち、やがて氷が溶けて海へと放たれていきます。
アイスアルジーが細切れで放出された場合には、海中を漂いながら微細な海洋生物の餌に。氷が溶けて群体が海底へと放たれれば、底生生物の餌となるわけです。
そしてアイスアルジーを捕食し暮らす小さな海洋生物たちを、今度は海鳥類や魚類が捕食します。
このようにアイスアルジーは、動物の餌となる有機物を生み出す基礎生産者としての役割を担っているのです。
4 アイスアルジーとオキアミの関係
南極をはじめとした極地の生態系においてアイスアルジーと並んで非常に重要な存在として知られるのが、オキアミです。
オキアミとは、体長は6cm、体重は2g前後のエビにも似た外見が特徴的な海洋生物の1種。
中でも南極に生息するナンキョクオキアミは「キーストーン種(中枢種)」とも呼ばれ、海産哺乳類、海鳥類、魚類といった南極で暮らす生物たちが生存していく上で欠かすことはできません。
そしてオキアミたちもまた、自分より微細なプランクトンを捕食することで生きています。実は、そのオキアミたちの餌となっているのがアイスアルジーなのです。
たとえ小さな生物たちの間でも、食物連鎖は続いていることがわかりますね。
アイスアルジーは、縁の下の力持ち
今回は、生態系にとって重要な珪藻類の1種「アイスアルジー」について解説しました。
一見すると、取るに足らない藻類にしか見えないアイスアルジーですが、実は豊かな海水域の生態系にとって欠かせない存在なのです。
その存在は、生態系を影から支えるまさに「縁の下の力持ち」。
大型動物だけでなくオキアミやアイスアルジーといった小さな生物たちにも目を向けることで、連綿と続く食物連鎖を垣間見ることができるのではないでしょうか?