極寒地に生息するジャコウウシとは?名前の由来や生態について

COLUMN | 2020.03.31

皆さんは極北で暮らす「ジャコウウシ」と呼ばれる動物をご存知でしょうか?

ジャコウウシは、アラスカ、カナダ北部、グリーンランドといった寒さの厳しい北極圏を中心に生息する大型の草食動物の1種。バッファローを思わせる逞しい見た目が特徴です。

まだこの世にマンモスが生きていた頃から極寒の氷河期を耐え抜き、現在まで生き延びてきたと言われています。そのため、ジャコウウシは「生きた化石」と称されることもしばしば。

今回は、そんなジャコウウシの知られざる特徴や生態、さらには名前の由来に至るまで詳しくご紹介します。

1 極北で暮らす「ジャコウウシ」とは?

極北で暮らす「ジャコウウシ」とは?

ジャコウウシとは、ウシ科ジャコウウシ属に分類される大型の偶蹄類です。

肩までの高さは110~140cm、体重は200~400kg前後と体格に関しては一般的な牛とほとんど変わりません。

一方で、外見に関しては黒褐色の長い体毛と先端が外側上方へ向かう角が特徴的で、まるでバッファロー(バイソン)を思わせるような雄々しい見た目をしています。

ジャコウウシの祖先が出現したのは、およそ60~70万年前のヨーロッパ。数々の動物たちが氷河期を乗り越えることができず絶滅していく中、ジャコウウシたちは分厚い体毛を蓄え寒冷な環境へと適応していったのだそう。

そのため自然分布するのは、主にアラスカ、カナダ北部、グリーンランド(デンマーク)といったツンドラ地域が中心です。

体格の割には少食で、少量の草やコケや地衣類を食べるだけでも生き延びることができると言われています。

2 知られざるジャコウウシの生態と特徴

知られざるジャコウウシの生態と特徴

2-1 極北を生き抜く分厚い体毛

ジャコウウシの最たる特徴は、全身を覆う黒褐色で長い体毛です。ジャコウウシの体毛は、体表に近いキヴィアックと呼ばれる層とその上に生える毛足の長い層の2つに分かれています。

この体毛のおかげで、なんと-40度に達するような極寒地でも寒さをしのぐことができるわけです。

氷河期を乗り越えてきたその強くしなやかな体毛のもつ防寒性は伊達ではありませんね。

2-2 ボスの座を争うオスのジャコウウシ

ジャコウウシの雄の間では、一年を通じて群れにおけるボスの地位を巡り覇権争いが繰り広げられます。

先端が外側上方へ向かう独特の形状をした角同士をぶつけ合う様子はまさに圧巻。お互いに力尽きるまで全速力でタックルを繰り返し、最終的に勝った雄が群れにおけるリーダーの地位を手にすることができるのです。

リーダーとして群れを守る役目を担う以上、強い雄がその地位を手にするのはある種必然と言えるかもしれません。

2-3 群れをなしてお互いを守る絆の強さ

ジャコウウシたちは基本的に夏場は10~15頭の比較的小規模な群れを、冬場は100頭近くを率いた大規模な群れをなして行動します。

その群れの真価が発揮されるのは、オオカミを始めとした天敵に遭遇した時。雄のリーダーを筆頭に、群れの中でも強い個体たちが外側に向けて円陣を作ることで、子牛を始めとした弱い個体を守ろうとするのです。

ただ群れをなすだけではなく、状況に応じてお互いをカバーしあう絆の強さもジャコウウシの特徴の1つと言えるでしょう。

3 ジャコウウシからは「ジャコウ(麝香)」の香りがする?

ジャコウウシからは「ジャコウ(麝香)」の香りがする?

気になるのが「ジャコウウシ」という名前の由来。

交尾期になると雄は臭腺から「ジャコウ(麝香)」にも似た香りのする特殊な分泌液を出してマーキングを行うことから、ジャコウウシという名前が付けられたと言われています。

ちなみに「ジャコウ」と書くとイメージしづらいかもしれませんが、英語に直すと「Musk(ムスク)」。バニラにも似た甘く幻想的な芳香は、香水や芳香剤の香料としても有名ですね。

しかしながら一般的に香料として珍重されているのは、ジャコウジカやジャコウネコと呼ばれる動物から取れる分泌物。ジャコウウシの分泌物はかなり臭気が強く、いわゆるムスクの香りとは程遠いのだそう。

4 ジャコウウシの産毛「キヴィアック」は高級品

ジャコウウシの産毛「キヴィアック」は高級品

-40~60度と言う凄まじい寒さを凌ぐジャコウウシの体毛。

中でも体表に近い産毛は「キヴィアック(Qiviuk)」とも呼ばれ、数ある動物繊維の中でも高級品として位置付けられています。

その毛足は「繊維の宝石」としてもお馴染みの高級品種「カシミア」よりも細く長いのだとか。また一般的な羊毛(ウール)と比べても、その保温性や肌さわりの良さも段違い。

繊細で希少なジャコウウシの毛は「幻の繊維」とも呼ばれ、非常に高値で取引されることでも知られています。

一方で、その毛皮目当てによる無作為な乱獲から、過去には絶滅の危機に瀕したこともあるほど。1917年からカナダ政府が国を挙げてジャコウウシの保護政策を行った甲斐あって、今ではその頭数も元通りになりました。

極北を生き抜く、強く逞しいジャコウウシ

今回は、極北に生息するジャコウウシにスポットを当ててご紹介しました。

何十万年にも渡る気が遠くなるような時を経て寒冷な環境へと適応し、-40度もの猛烈な環境下でも生きられるようになったジャコウウシたち。

分厚い体毛で寒さをしのぎつつ、群れをなし天敵から自分の身と大切な子供達を守る、その強く逞しい姿からは極地の厳しさと美しさを垣間見ることができます。

また寒さに対しては非常に強いジャコウウシですが、暑さには滅法弱いことでも知られています。地球温暖化が叫ばれる昨今、ジャコウウシたちの住処である極北の気温が上昇すれば絶滅の危機に瀕する可能性も。

生きた化石とも呼ばれる貴重な動物の住処を守るために、私たちも身近なところからコツコツと環境面への配慮を心がけていきたいですね。

 

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