北極海航路とは?南回り航路との違いや今後の課題について

COLUMN | 2020.03.10

ヨーロッパを東アジアを結ぶ航海ルート。

その1つとして近年世界中から注目を集めているのが「北極海航路(Northern Sea Route : NSR)」と呼ばれるルートです。

しかしながら、日頃から貿易関係や輸出入に関わる仕事をしていない方々からすると、そもそも「航路」という言葉自体が縁遠い存在かもしれませんね。

従来のいわゆる「南回り航路」と比較すると、北極海航路は輸送時間や燃料費といった点でメリットが多いと言われています。もし今後、北極海航路を利用する頻度が増えれば日本も大きな恩恵を受ける可能性が高いのだとか。

今回は、そんな将来性の高い「北極海航路」について、従来の「南回り航路」と比較した時のメリット・デメリット、さらには本格的に利用する上での課題に至るまで、わかりやすく解説いたします。

1 そもそも「北極海航路」とは?

そもそも「北極海航路」とは?

北極海航路とは、その名の通り「北極海」を通る航行ルートのこと。

英語で「Northern Sea Route」と表記することから、頭文字をとって「NSR」と略されることもあります。

ちなみに北極海を通る航路は大きく分けて、ロシア沿岸を航行する「北東航路」と北米大陸沿岸を航行する「北西航路」の2つ。このうちロシア沿岸を航行する「北東航路」が、一般的に北極海航路と呼ばれるものです。

旧ソ連時代の1987年、ムルマンスクで行われたゴルバチョフ書記長による演説をきっかけに、NSR商業航路化に向けた国際的な動きが始まると、1993年には日本主導による国際北極海航路計画(INSROP)もスタート。

地理情報システムや運行シミュレーションの開発なども行われるも、当時はまだ海氷状況が厳しく本格的な利用は厳しかったのだそう。

しかしながら近年は地球温暖化に伴い北極海の海氷勢力が大幅に減少したことから「北極海航路」の存在が再び大きな注目を集めているのです。

2 北極海航路と南回り航路の違い

北極海航路と南回り航路の違い

一方、ヨーロッパ・アジア間の海上輸送おいて、エジプトのスエズ運河を通る航路は南回り航路と呼ばれています。

北極海航路と南回り航路では、輸送時間・燃料費・安全面など異なる点が沢山。それぞれの航路におけるメリットやデメリットについて確認していきましょう。

2-1 輸送時間と燃料費

北極海航路と南回り航路における最も大きな違いは、輸送時間です。

北極海航路は、南回り航路に比べ航行距離が30~40%ほど短いため、輸送にかかる時間を大幅に短縮することができると言われています。

そして航行距離が短いということは、それだけ消費する燃料も少なく済みます。つまり海上輸送にかかる時間と燃料費、両方をカットできるというわけです。

2-2 航路の安全面

南回り航路には、チョークポイントと呼ばれる航路上の難所が存在します。例えばスエズ運河のバーブ・アルマンデブ海峡とマラッカ海峡では、海賊に遭遇するリスクも。

一方で、北極海航路には現段階において目立ったチョークポイントはほとんどありません。そのため比較的安全に航行することができると言われているのです。

ただし安全に航海を行うためには、優れた耐氷船の存在が必須。

先ほど輸送時間と燃料費を大幅にカットできるという旨の説明をしましたが、北極海に適した耐氷船や設備に関わる費用は、一般海域を航行する船に比べて高額になってしまうというデメリットもあります。

2-3 NSRAによる事前許可の有無

北極海航路(北東航路)は南回り航路に比べ、輸送費用・燃料費や安全面などメリットが多いことは確かです。

しかしながら、北極海航路を利用するためにはNSR航海規則に基づき、あらかじめNSR管理局(NSRA)に対して航海の許可申請を行わなければなりません。

毎回事前に申請しなければならないので、手間がかかってしまいます。

また料金体系に関してもスエズ運河のような運賃表(タリフ)もなく、航海ごとの交渉によって決定されるため、通航金額が不透明という点もデメリットと言えます。

3 北極海航路における今後の課題

北極海航路における今後の課題

一見するとメリットの多いように見える北極海航路。しかしながら、本格的に国際航路として利用していくためにはまだ多くの課題が残されています。

3-1 海氷状況を把握する技術の開発

北極海における航行では、通常よりも精度の高い海氷情報の把握が不可欠です。

技術の進歩はめまぐるしいものではあるものの、現状の技術における空間解像度はまだまだ不十分。北極海航路はチョークポイントこそ無いにしても、座礁等のリスクを回避する必要があります。

船舶が頻繁に行き交うような商業航路化を目指す以上、海氷状況を把握そして予測できるような高度なシステムの研究開発を進めていかなければなりません。

3-2 脆弱な北極海の環境保全も必須

北極海は、たとえ些細な外的要因であっても大きな影響を及ぼすこともあるほど脆弱で繊細な自然環境です。

今後、北極海航路が本格的に商業利用されるようになれば、当然ながら行き交う船舶の数も大幅に増加します。万が一船舶の事故が発生した場合を考えてみましょう。

座礁した船舶から漏れ出た大量の重油が北極海へと流出すれば、環境に対するダメージは計り知れません。

わずかな刺激が大きな乱れを引き起こす繊細な「北極海」を私たち人間が「航路」として利用する以上、環境保全に最新の注意を払う必要があります。

北極海航路の拡大は地球温暖化進行の裏返し?

今回は、世界から注目を集める「北極海航路」について解説しました。

技術面や環境保護面での課題をクリアすることさえできれば、北極海航路は今後アジア諸国とヨーロッパを結ぶ架け橋になる可能性も十分考えられます。

一方で、北極海航路の拡大を手放しで喜ぶこともできません。北極海航路の拡大、すなわち北極海を漂う氷の減少は、皮肉にも地球温暖化に伴う気温の上昇が原因となっている可能性もあるからです。

航路が拓ければ確かに貿易上メリットは大きいですが、航路が拓けるということはそれだけ北極海の氷が小さくなっていることを意味します。

経済的な恩恵ばかりでなく、環境面への配慮や必要な整備をしっかり行っていく必要があると言えるでしょう。

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