北極と南極。氷床の下に眠る膨大な資源は今後どうなる?
COLUMN | 2019.12.06
北と南にある2つの広大な極地。北極と南極。
いずれの極地もかねてより、氷床の下に眠る膨大な資源について幾度となく俎上に載せられてきました。
バイオマスや自然エネルギーの活用など持続可能性の高い代替資源の開発が進んでも、やはり天然ガスや化石燃料を始めとした天然資源は各国喉から手が出るほど欲しいものです。
しかしながら、各国が資源の所有権を主張すればそれこそ大規模な紛争へと発展しかねません。
今回は北極や南極に眠る天然資源について、国際法や条約を踏まえつつ、資源開発の現状や開発に伴う環境汚染問題に至るまで詳しく解説します。
1 南極の資源はどこの国にも属さない
広大な2つの極地。まずは南極の資源について考えていきましょう。
結論から言ってしまうと、南極の資源はどこの国にも属しません。
南極に関しては、1959年に締結された南極条約と呼ばれる国際的な取り決めによって、66度33分以上の土地に対する領土権は全て凍結されています。
領土権が凍結されているということは、氷床はもちろん周辺海域に眠る資源も”誰のものでもない状態”なのです。この状態を学問上では「無主」と呼びます。
少なくとも南極条約の効力が続く2048年までは、資源を巡って争いが起こる可能性も低いと言えるでしょう。
ただし、南極の氷床の下に膨大な資源が眠っていることは確かです。来たる2048年の前に、条約締約国の誰かが資源開発に関して口火を切る可能性も考えられます。
2 氷の溶解によって北極の資源開発が進んでいる
一方、北極に関しては南極条約のような包括的な取り決めが存在しません。南極が「陸」であるのに対して、北極は「海」。適用されるのは、海洋法くらいなものです。
地球温暖化の影響による氷(永久凍土)の溶解に伴い、こうしている間にも北極では資源開発が着々と進んでいます。
というのも、北極には膨大な量の天然資源が眠っていると言われているのです。その埋蔵量は、世界における天然資源の22~25%。各国が権益拡大を狙うのも無理はありません。
現在、北極の資源開発を主導しているのは主にロシア。日本企業この動きに与する形で、ターミナルの建設事業などへの参画することが予想されています。
資源の枯渇が叫ばれる昨今、包括的な条約の存在しない北極に眠る資源は、今まさに世界各国から熱い注目を浴びていると言えるでしょう。
3 北極には具体的にどのような資源があるのか?
前述した通り、世界における天然資源の22~25%が北極に存在すると言われています。
天然資源の内容は、主に石油を始めとした鉱物資源そして天然ガスの2つ。エネルギー革命が叫ばれる現代においても、やはり石油と天然ガスは欠かせません。
資源自体が人々の暮らしに必要という理由もありますが、やはり一番は資源の輸出によってもたらされる莫大な経済的恩恵です。
ちなみにロシアは、北極圏のヤマル半島で天然ガス採掘の開発に着手しています。
ただし、どの国でも北極開発が自由に行えるわけではありません。北極圏には、カナダ、デンマーク、ノルウェーを始めとした沿岸国によって既に排他的経済水域(EEZ)が設定されています。
もしEEZ内で資源開発を行う場合には、海洋法に基づき、沿岸国の同意が必要です。
4 北極に眠る資源を巡って紛争が起こる可能性は?
歴史を振り返ってみると、天然資源が原因となって発生した戦争も数多く存在します。
何度失敗を繰り返したとしても、国家間において「資源を分かち合おう」という合意に至ることはほとんどありませんでした。
北極に眠る膨大な埋蔵量の天然資源を考えれば、今後、国際的な紛争が発生する可能性も否定できません。他の国よりもできるだけ早く開発に着手し、権益を独占したいと考えるのは当然です。
2019年現在、具体的な紛争が発生しているわけではないものの、首脳会談で北極資源に関する議題が取り上げられるたびに国際的な緊張感が高まります。
国家の存続において天然資源の存在が非常に重要であることは当然として、今後、各国がいかに譲歩しあえるかどうかが北極開発の鍵を握ることになるでしょう。
5 北極の資源開発と環境問題
北極の資源開発が進むに伴って懸念されているのが、環境問題です。
開発が行われるということは、船舶が頻繁に往来することを意味します。例えば、ある国の船舶が航海途中に座礁した場合を考えてみてください。
船舶から漏れ出した重油によって、北極海が汚染されてしまう可能性も考えられるでしょう。
加えて北極海は周辺の陸地との関係上、海水の循環がしづらいと言われています。そのため万が一重油などが流出すれば、海水の油濁が長期化することも。
自国の発展のために資源開発を行なった結果、貴重な北極海という環境を破壊、巡り巡って自分たちの首を絞めることにもなりかねません。
開発にあたっては、船舶の安全体制などを含め慎重な行動が求められます。
今後、北極にも包括的な条約が必要になる可能性も
冒頭でも説明した通り、南極には平和的利用について定めた「南極条約」とそれに付随する各種議定書を含む南極条約体制が存在します。
66度33分以上に位置する土地については領土権も凍結済み。
よって、南極条約締約国のいずれかが条約を無視するような暴挙に出ない限り、今後南極を巡る紛争が起こる可能性は極めて低いと言えるでしょう。
一方で北極に関しては、未だ南極条約のような包括的取り決めが存在しません。
各国が私欲のままに行動すれば、北極という素晴らしい自然を後世に残すことができなくなってしまいます。
北極に眠る膨大な資源が再び注目されている昨今、無闇矢鱈な開発によって環境破壊と資源をめぐる紛争を抑止するためにも何らかの条約の締結が必要になる可能性もあると言えるでしょう。