「山脈」とは?その定義と代表的な山脈について
COLUMN | 2020.05.22
日本の国土は山が多く平地が少ないという特徴があり、約3分の2は山地で形成されていると言われています。
山は時折、山脈や山地といった名称で呼ばれている場合がありますが、その区別や定義についてご存知ない方も多いのではないでしょうか。
今回は「山脈」という言葉に焦点をあて、その意味や山地や高地といった言葉との意味の違い、日本と世界の代表的な山脈にスポットを当てて解説します。
1 そもそも山脈とは?
山地の中でも山稜線(山頂と山頂を結ぶ主脈)が、脈状に連なっているものを「山脈」と呼びます。
言ってしまえば、山脈は個々の山の集合体。そのため〇〇山脈と言った時には、その山脈に属する個々の山が存在します。
日本国内では、後ほど解説する日本アルプス(飛騨山脈、木曽山脈、赤石山脈)、世界ではヒマラヤ山脈やロッキー山脈などが有名です。
また山脈は地質学上、形成の成因によって褶曲山脈と断層山脈の2種類に分けることができます。
1-1 褶曲山脈
褶曲山脈(しゅうきょくさんみゃく)とは、幾重にも折り重なる地層がプレート運動の圧力によって波状に隆起した山脈のことを指します。
つまり、かつては平坦だった土地が、横からの圧力によってグニャッと曲げられるように(=褶曲)して形成された山脈のことを褶曲山脈と呼んでいるわけです。
圧倒的な標高の名峰たちを数多く抱えるヒマラヤ山脈やアルプス山脈も、この褶曲山脈に分類されます。
1-2 断層山脈(断層山地)
対して断層山脈(断層山地)とは、断層のズレによって高くなることで生じた山脈のこと。
圧力がかかることで地盤に割れ目が生じます。ここにさらに圧力がかかることで地盤の割れ目にズレが生じ、このズレが大きく成ることで断層山脈が形成されると考えられています。
日本アルプスとして知られる飛騨山脈、木曽山脈、赤石山脈も、断層山脈に分類されます。
2 山脈・山地・高地の違い
山に関するキーワードとして、山脈のほか「山地」「高地」など似たような単語が多く登場します。ではそれぞれ、本来はどのように使い分けるべきなのでしょうか。
- 山地 : 比較的大きな高低差や傾斜を持つ山々が連なる
- 高地 : 山地の中でも比較的高低差や傾斜が小さく、全体的に平坦
- 山脈 : 山地の中でも山稜線(山頂と山頂を結ぶ主脈)が、脈状に連なる
山地の中でも、山稜線が脈状に連なるのが山脈、比較的平坦であるのが高地です。このように山脈や高地は、広義の「山地」に含まれるようなイメージを持つと理解しやすいでしょう。
ただし日本国内における〇〇山脈や〇〇高地といった地名は必ずしも地質学的な定義に沿うものではありません。慣習的な呼称として用いられている場合も多いと言われています。
3 和製アルプス山脈として有名な「日本アルプス」
日本の地形は、山脈がまるで背骨のように列島中心に連なっているのが特徴。
中でも最も有名な山脈といえば、日本アルプス。日本アルプスとは「日本の屋根」とも呼ばれる山脈で、「北アルプス」「南アルプス」「中央アルプス」という3つの山脈の総称です。
「日本アルプス」という名称は明治時代、イギリスより治金技師として招聘されたウィリアム・ゴーランド氏によって名付けられたと言われています。
各アルプスには和名もあり、北アルプスは飛騨山脈、中央アルプスは木曽山脈、南アルプスは赤石山脈を指しています。
3-1 飛騨山脈(北アルプス)
飛騨山脈(北アルプス)とは、富山県、新潟県、岐阜県、長野県の4県をまたがるようにして連なる美しい山脈です。
槍ヶ岳、双六岳、奥穂高岳、西穂高岳など標高2,000〜3,000m級の山々を数多く抱えています。
中でも立山連峰の1つに属する剱岳は一般登山者が登ることのできる山の中で最も危険度が高く、「カニのヨコバイ・カニのタテバイ」と呼ばれる鎖場が難所として有名です。
3-2 木曽山脈(中央アルプス)
木曽山脈(中央アルプス)とは、長野県の南西部から岐阜県と愛知県にかけて伸びる雄大な山脈です。
木曽駒ヶ岳、空木岳、宝剣岳、三ノ沢岳、恵那山をはじめとした美しい名峰たちを抱えています。
中でも木曽駒ヶ岳は、ロープウェイを使って登れる山の中では最高クラスの標高2,956m。標高2,612mまではロープウェイで登頂可能であるため、その手軽さから観光スポットとしても有名です。
また木曽山脈には、氷河の侵食によって形成された圏谷(別名 : カール)も多く、その一帯ではコマウスユキソウをはじめとした珍しい高山植物たちが数多く植生しています。
3-3 赤石山脈(南アルプス)
赤石山脈は長野県、山梨県、静岡県の三県をまたがる山脈です。
赤石岳、北岳、仙丈ヶ岳、間ノ岳をはじめ標高3,000m級のダイナミックな名峰をなんと10座も抱える赤石山脈。中でも山梨県南アルプス市に位置する北岳は、富士山に次ぐ国内第二位の標高(3,193m)を誇っています。
また赤石山脈は、現在も年間3〜4mmのスピードで隆起し続けていることで知られており、その速度は数ある山脈の中でも群を抜いています。
仮にこのペースを維持し続けたとすると1000年後には30m、1万年後には300m、100万年後には3,000mも隆起する計算になります(※)。ヒマラヤ山脈が5000万年かけて7000~8000m級の山脈を形成した過去を考えると、南アルプスはもっと早い段階でヒマラヤ級の標高に到達する可能性もあるかもしれません。
※複雑な隆起のメカニズムを一旦考慮せずに、至極単純な計算を行った場合の想定です。
4 世界の有名な山脈
世界には日本の山脈とは標高・全長においてスケールの異なる、ダイナミックな山脈が数多く存在しています。
4-1 ヒマラヤ山脈
ヒマラヤ山脈は、世界最大の高原地帯としても知られるチベット高原とインド半島の間に位置する山脈です。世界で最も有名な山脈と表現しても過言ではありません。
その成り立ちは遥か昔、インド大陸とユーラシア大陸が衝突し元々は海に沈んでいた部分が大きく隆起したことで、巨大なヒマラヤ山脈を生み出したと言われています。
標高7,000〜8,000m級の山々がそびえ立つその圧倒的なスケールから「世界の屋根」と呼ばれることもあるほど。
ちなみにインドのヒンドゥー教においてヒマラヤ山脈は「ヒマヴァット神」として神格化され、信仰の対象とされています。
以下の記事でも、第三の極地とも呼ばれるヒマラヤ山脈について詳しく解説しています。
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4-2 アンデス山脈
アンデス山脈は、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチンといった複数の国をまたがって伸びる大山脈のこと。
世界最長の山脈とも呼ばれるその全長は、なんと約7,500km。
雄々しく連なるアンデス山脈の中でも最高峰として知られるのがアコンカグア。その標高はなんと約6,960m。エベレストに負けず劣らず登頂難易度も極めて高く、成功率は3割にも満たないと言われるほど。
凄まじい大自然のスケールとは対照的に、ペルー南東の標高3,400mにはクスコと呼ばれる都市も存在しており、40万人以上の人々が自然と共に穏やかな暮らしを送っています。
4-3 カラコルム山脈
パキスタン・インド・中国の国境付近に連なるのが、カラコルム山脈。標高8,600mを超える世界最高クラスの名峰「K2」を抱える山脈として世界的に有名です。
カラコルムとは、モンゴル語で「黒い砂利」の意。地質には玄武岩や安山岩が多く含まれているため、氷河と雪解け水が黒色に変わることからカラコルムと呼ばれるようになったと言われています。
複数の国をまたがることから多くの別称が存在し「ゴドウィン・オースチン山」「マッシャーブルム山」「チョゴリ山」などと呼ばれることも。
前述したヒマラヤ山脈の一部として扱われることもありますが、厳密には別の山脈であるという見方が有力です。
4-4 ロッキー山脈
ロッキー山脈は、北アメリカのせ西部を北西から南東にかけて走る雄大な大山脈です。
山脈全域にわたって非常に豊かな生態系と植生を抱えていることから観光スポットとしても有名で、「カナディアン・ロッキー山脈自然公園群」と呼ばれる4つの国立公園と3つの州立公園が存在しています。
ちなみにロッキー山脈を構成する、標高2599mの急峻なバージェス山に存在する「バージェス頁岩」からは、かつてのカンブリア紀を生きた太古の生物たちの化石が次々と発掘されており、地質学的観点からも重要視されています。
雄大な自然と太古の生物の轍が残る、素晴らしい景色は一見の価値があると言えるでしょう。
「山脈」から個々の「山」を眺める
山脈とは、いわば個々の山が連なって形成された集合体。
木曽山脈であれば、木曽駒ヶ岳、空木岳、宝剣岳、三ノ沢岳。飛騨山脈であれば、槍ヶ岳、双六岳、奥穂高岳、西穂高岳など「山脈」の下にはそれぞれ個性的な山が数多く存在します。
山脈という単語で一括りにせずに、山脈に属する個々の山について掘り下げてみると面白いかもしれません。
標高の高い山、岩肌の多い急峻な山、高山植物の生い茂る植生豊かな山など個性豊かな山々の特性にも着目してみてくださいね。