積雪期の登山では万全な準備を
COLUMN | 2023.01.05
四季を感じながら楽しむことができる登山。
どの季節でもさまざまな楽しみ方ができる登山ですが、特に注意すべき季節は冬。無積雪期と比べて山の状況や気象条件が過酷なので、それに対応する服装やアイテムを準備しなければいけません。
今回は積雪期の登山にフォーカスし、レイヤリングや準備すべきアイテムを説明します。
1 積雪期の登山の服装
積雪期の登山において注意すべき点は、できるだけ肌を濡らさないことが大切です。
無積雪期の登山でも肌を濡らさないことは重要なポイントですが、冬山の場合は低体温症・凍傷のリスクが高まるため非常に重要となります。
冬登山ではハードシェルやザック、登山靴に目がいきがちですがレイヤリングがとても重要。
上述したように「できるだけ肌を濡らさないこと」がポイントになるため、レイヤリングや靴下、手袋などにも目を向け快適な冬登山を楽しみましょう。
2 上半身のレイヤリングはベースレイヤーに重点を置く
登山の基本は「アウターレイヤー」「ミドルレイヤー」「ベースレイヤー」の3層の重ね着であるレイヤリング。ここでは上半身にレイヤリングについて説明していきます。
2-1 ベースレイヤー
ベースレイヤーはレイヤリングの中でも、最も肌に近い場所で着用するウェア。
汗を吸い上げる「吸水性」、吸い上げた汗を表面で拡散させる「拡散性」を保有しているアイテムが多く、結果として多くのベースレイヤーには汗が乾きやすい「速乾性」が備わっていることがポイント。
つまり汗を素早く吸水拡散し汗冷えを防いでくれるウェアになるので、積雪期の登山を楽しむためには極めて重要なことです。
積雪期の登山であれば、ベースレイヤーは厚手の化繊もしくはメリノウール素材がおすすめ。
吸湿性保湿性を重要視するのであればウールを、速乾性耐久性を重要視するのであればポリエステルなどの化繊(化学繊維)両方の素材の長所を併せ持つハイブリッドといったように、どの機能性を重視したいかで素材を選択することが必要とななります。
綿やレーヨンは汗を吸っても乾きにくく、体を冷やしてしまう恐れがあるため避けるのが無難です。
ベースレイヤーは最も肌に近い場所で着用するため、サイズ感も大切なポイントの一つ。肌が擦れたり吸湿速乾性の効果が薄れたりしないよう、身体にフィットしたものを選びましょう。
2-2 ミドルレイヤー
ミドルレイヤーは前述したベースレイヤーの上に着用するウェアで、防寒着を意味します。
空気を溜める中間層を作って、保温性を確保しつつ蒸れを逃がす役割を担います。そのため、汗を吸い上げる「吸水性」と、体を温める「保温性」を保有していることがポイント。
化繊綿のウエア、フリース、ダウンなどが提供されているので、気温や体感温度に合わせて組み合わせましょう。
積雪期であればミドルレイヤーはダウンジャケットやフリースジャケットがおすすめ。
ダウンジャケットは冬登山の定番ミドルレイヤーとして高い支持を集めており、保温力がとても高く、厚い羽毛や綿が熱を外に逃がしません。
フリースはミドルレイヤーの代表格として高い人気を誇ります。保温性と透湿性に優れており、伸縮性もあるので快適な着心地が魅力。
ダウンジャケットに比べ、フリースは汗の乾きが早いことがメリット。季節を問わず対応できるので一着持っておくと重宝するアイテムです。しかしながらダウンジャケットと比較すると保温性は劣ってしまうことを覚えておきましょう。
積雪期の登山は寒さ対策が重要になるので、厚手のフリースを着用したり、ダウンと重ね着するなど対策を行いましょう。
2-3 アウターレイヤー
アウターレイヤーは雨・風・雪などから身体を守る役割を担います。
悪天候時のレインウエアや雪山のアウターレイヤーとして使用されるアイテム。刻々と代わる過酷な環境に対応するため、優れた素材を使用した機能的なアイテムであることが求められます。
素材はゴアテックスなど、防水・撥水・防風・透湿機能のあるレインウェアや、雪山用のジャケットが該当します。
雨を防ぐ「防水性」 、寒さから体を守る「保温性」、風を遮る「防風性」が主な性能。それぞれに特化したウェアは、レインウェア(雨具)、インサレーションウェア(保温着)、ウィンドシェル(ウィンドジャケット)など分類されています。
冬場の高山は尾根に出ると風がとても強くなることもしばしば。ウィンドシェルはすぐに着用できるようにザックからすぐに取り出せる位置に入れておきましょう。
3 下半身レイヤリング
登山時のレイヤリングは上半身だけではありません。特に冬登山の場合は下半身のレイヤリングも重要になるので、適切なアイテムを選びましょう。
3-1 パンツ
下半身におけるレイヤリングであれば、下着はベースレイヤー、パンツはミッドレイヤーの役割を担います。
基本的にはトレッキングパンツを着用しますが、冬場にはインナータイツを、雨や雪のシーンではレインパンツやシェルパンツを履きましょう。
インナータイツを着用することで保温力が格段に上がります。その際に薄手のものから厚手のものまで提供されているので、自分に合ったアイテムを選びましょう。また、インナータイツは肌に触れるものなので、素材に綿が含まれていない速乾吸収性に優れたものを推奨します。
冬用のシェルパンツは、裾から雪が入りにくい構造になっており生地も丈夫です。ごついブーツでも着脱しやすいようにジッパーが長いのも嬉しいポイント。ウェストがずれ落ちにくいなどの工夫も採用されていることが多いです。
積雪時でのレイヤリングは大きく2パターン。
1つ目は「ベースレイヤー・アウターシェル」の組み合わせ。ベースレイヤーはウール混のもので、厚手のタイツや体にフィットするパンツなどです。その上から、冬用のアウターシェルを履きます。
もう1つは、「ベースレイヤー・ミッドレイヤー・アウターシェル」の組み合わせ。上半身同様のレイヤリングで、ベースは薄手のタイツ、ミッドは普通のパンツ、アウターはシェルを履きましょう。
積雪期の登山では凍傷の原因になるため、雪が服の中に入ってこないように注意が必要です。
3-2 靴下
冬場の登山では服装に気を使いますが、靴下選びもその内の一つ。
足の指は凍傷にかかりやすい部位であるため、厚手で保温力に優れたものを選ぶことがポイント。
念の為、替えの準備を用意しておきましょう。冬場の登山では、汗で靴下が濡れてくると指先が凍るように冷たくなってきます。凍傷の危険性も高まるので、忘れずに準備しましょう。
靴下を選ぶ際のポイントは、靴に足を入れた時に窮屈にならないこと。足の指が動かせる余裕のあるものを選ぶことが大切です。キツキツの状態だと、空気の層が作られず余計に冷えることになることを覚えておきましょう。
4 登山靴選び
登山靴についても冬季専用の靴が販売されているので、そちらを選択しましょう。オールシーズン用の登山靴とは違い、保温性や防水性に優れています。
足先は冷えやすく凍傷のリスクも考えられるので、積雪期の登山であれば冬季専用の登山靴を推奨します。
また登山靴を選ぶ際は、冬用靴下を履いた状態で指先に余裕があるものを選択しましょう。これにより、足と登山靴の間に少しの空間が生まれ、登山靴の中がより暖かくなります。
5 その他アイテム
積雪期の登山の場合、グローブなどの小物類にも気を配りましょう。ここでは雪山登山に必要な小物類やギアを紹介していきます。
5-1 ニットキャップ
頭部の保温と保護のために必要なのがニットキャップ。耳の凍傷を保護してくれる役割も担ってくれます。
また状況に合わせて、首元からの冷気を防ぐネックゲーターも効果的。風雪が強い時は顔全体を覆えるバラクラバがおすすめです。
バラクラバやフード付きウェアに、ニットキャップをプラスすることでさらに保温性が高まります。
ニットキャップを選ぶ際は、カジュアルなものでも構いませんが、厚手のものを持参しましょう。その際に汗で濡れてしまうので、必ず予備を持参することが大切です。
5-2 サングラス・ゴーグル
サングラス・ゴーグルは、積雪期の登山において重要なアイテムの一つ。
冬登山では雪による照り返しで紫外線が増え、角膜の表面が傷つく「雪目」と呼ばれる病気を引き起こす危険性があります。
サングラスやゴーグルを着用することで、雪目対策にも繋がるので忘れずに持参しましょう。
吹雪など視界が悪い天候であればゴーグルを着用し、天候が落ち着いている場合はサングラスがおすすめ。
5-3 グローブ
グローブも冬場の登山には必須のアイテム。冬用のグローブが提供されており「マイナス〇〇度対応」などと表記されているので、確認しておきましょう。
積雪期の登山であれば、グローブのレイヤリングも重要です。薄手のインナーグローブに、防風・保温できるアウターグローブを重ねます。
これによりアウターグローブを外しても、細かな作業を行う際にインナグローブを着用していることで対応することが可能です。
雨雪でグローブが濡れることも予想されるので、インナーグローブ・アウターグローブ共に予備のものを準備しましょう。
5-4 ゲイター
ゲイターは足と登山靴などのシューズの隙間を覆うように装着するギア。冬場や積雪期の登山には必須のアイテムです。
足元の泥汚れを防いだり、雨や雪、砂利などがシューズに入り込むことを防ぐ役割を担います。
ゲイターにはジッパー式とベルクロ(マジックテープ)式が主流です。ジッパー式だと積雪期であれば、凍って開け閉めができなくなってしまうことがあるので、ベルクロ(マジックテープ)式のものを推奨します。
5-5 アイゼン
アイゼンは、氷や氷化した雪の上を歩く際に滑り止めとして靴底に装着する、金属製の爪が付いた登山用のアイテム。
アイゼンと軽アイゼンが提供されており、選び方は以下の通りです。
- アイゼン(爪数10~14本)
前爪があることでアイスバーンや傾斜の厳しい斜面でも蹴り込んで進むことができるため、本格的な冬山登山ではアイゼンの使用が一般的。
- 軽アイゼン(爪数4~6本)
アイゼンと比べ前爪がなく、蹴ることができないため足を地面にフラットに置かないと性能を発揮できないことがネック。緩やかな傾斜の登山では軽アイゼンでも十分に対応することができます。
次に、装着方式が複数用意されていることもアイゼンの特徴の一つ。
アイゼンを選ぶ際に大切となるのが、登山靴の「コバ」の有無。
コバとは登山靴のつま先部分やかかと部分にある溝のことを指し、アイゼンによってはこの溝に引っ掛けて装着するため、アイゼン選びではこの「コバ」の有無によって装着タイプが異なります。
装着方式は3つ用意されており、「ワンタッチ式」「セミワンタッチ式」「バンド式」があります。
- ワンタッチ式
ワンタッチ式は、登山靴の中でもかかととつま先にコバがあるものが装着可能。スキー靴と同じように靴との一体感があることが特徴。装着する際の手間はかかりませんが登山靴との相性が悪いと外れやすいことがデメリット。
- セミワンタッチ式
セミワンタッチ式は、かかとにコバがある登山靴が対象で金具とベルトで固定するタイプです。
- バンド式
バンド式は登山靴にコバがなくても装着可能です。そのため対応する登山靴は数多くありますが、セミワンタッチタイプ、ワンタッチタイプと比べると装着に手間がかかります。
このようにアイゼンは様々な種類が用意されているので、アイゼン選びに不安な方はショップの店員に相談し購入を判断しましょう。
積雪期の登山は万全の準備を
積雪期の登山は、他の季節に比べ多くの準備が必要です。
目標とする雪山の環境や状況を考慮し、必要な服装や小物類を揃えましょう。
当記事を参考に、四季を味わいながら登山を楽しんでいただけると幸いです。