快適な登山を楽しむためのレイヤリングについて

COLUMN | 2022.09.05

多彩な表情を見せる山々には同じ風景は一つとしてありません。それは山が古くからの様々な年代の地質からなり、地質が異なると山容も植生も変化するため。

同様に気候の変化も多く、快適な登山を行うにはそれ相応の対策が求められます。

今回はバックカントリーやトレイルといった登山を伴うアクティビティには欠かせない「レイヤリング」にスポットを当てていきましょう。

1 「重ね着」を意味するレイヤリング

「レイヤリング(layering)」とはレイヤー(layer)を重ねる、すなわち「層」を積み重ねるという意味があります。

登山などでは「重ね着」のことを指す単語として知られています。

大きくはベース、ミドル、アウターの3種類に分類され、それぞれが登山中のコンディションを保つための重要な役割を担います。

この3種類の組み合わせのことを「レイヤリング」と呼ぶのです。

レイヤリングは山で生じる様々な条件に対応するため、身体を守るための重要な役割を担っていることを念頭においておきましょう。

2 レイヤリングは登山中の身体を守るために

登山中の発汗や、急な天候気候の変化。これにより登山中の体にはコンディションの変化が大きく現れます。

レイヤリングで大切なのは、こまめな着脱を極力行わずに体温調節を行うこと。

「暑いのでアウターを脱ぐ」「寒いのでアウターを着る」など臨機応変な体温調節も時には必要ですが、汗で体が冷えたり、冷たい空気に触れ続けたりすることで低体温症になる可能性もあります。

また、標高が100m上がるごとに気温が0.6℃下がり、風速1mごとに体感温度が1℃下がるとも言われています。

また、熱は素早く水に伝わるという特徴があるため、汗や雨などで濡れたまま放置してしまうと体がどんどん冷えてしまうというリスクも。

山に慣れてる方でない限り、山特有の身体の変化は察知しにくいものです。

そのためまずはレイヤリングの基本を理解し、常にウェア内をドライで快適に保つことを意識してみてください。

3 レイヤリングの構造

「アウターレイヤー」「ミドルレイヤー」「ベースレイヤー」の3層の重ね着であるレイヤリング。

この章ではそれぞれの役割や特徴を簡単に記載していきます。

3-1 ベースレイヤー

3つのレイヤーの中で、最も肌に近い場所で着用するウェアである「ベースレイヤー」。

肌着と言い換えても差し支えないでしょう。

汗を吸い上げる「吸水性」、吸い上げた汗を表面で拡散させる「拡散性」を保有しているアイテムが多く、結果として多くのベースレイヤーには汗が乾きやすい「速乾性」が備わっています。

汗を素早く吸水拡散し汗冷えを防ぐ。

これは山を楽しむために極めて重要なことです。

ベースレイヤーはその機能性からも、素早く汗を吸水拡散して肌をドライに保つこと、保温性の確保が主な目的と言えます。気象条件、発汗量や運動量などに応じて選択する必要があります。

吸湿性保湿性を重要視するのであればウールを、速乾性耐久性を重要視するのであればポリエステルなどの化繊(化学繊維)両方の素材の長所を併せ持つハイブリッドといったように、どの機能性を重視したいかで素材を選択することが必要です。

綿やレーヨンは汗を吸っても乾きにくく、体を冷やしてしまう恐れがあるため避けるのが無難です。

直接肌に触れるため着心地も大切なポイント。 肌が擦れたり吸湿速乾性の効果が薄れたりしないよう、身体にフィットしたものを選んでください。

3-2 ミドルレイヤー

ミッドレイヤーはベースレイヤーの上に着用するウェア。肌面から汗を遠ざけながら体温を保持する役割を担います。そのため、汗を吸い上げる「吸水性」と、体を温める「保温性」を主に保有しています。

保温性を確保しながらウエア内をドライに保つミドルレイヤーには2つの活用方法があります。

1つは行動中に着用する「行動着」として。

もう1つは休憩中や気温の低いときに羽織る「保温着」として。

行動着にはベースレイヤーから移動した水分を吸水して乾燥させる役割があるので、速乾性と通気性が求めれれます。

保温着はフリースや化繊のジャケット、ダウンジャケットが該当します。

ただしダウンジャケットは休憩時や小屋の中など、濡れる恐れがない場所で使用するようにしましょう。

羽毛は汗や雨などの水分を含むと、保温性が損なわれる上に乾くのが遅いためです。

どちらも主に保温性の確保が目的ではありますが、気象条件、発汗量、運動量などに応じ、汗をスムーズに透過させる通気性や速乾性も大切なポイントです。

ただし、ミッドレイヤーは行動中に着るウェアなので、保温性が高すぎると逆に不快感につながってしまいます。これを「オーバーヒート」と呼びます。オーバーヒートを防ぐためには、保温性と通気性のバランスが重要です。

3-3 アウターレイヤー

雨・風・雪などから体を守るアウターレイヤー。

悪天候時のレインウエアや雪山のアウターレイヤーとして使用されます。刻々と代わる過酷な環境に対応するため、優れた素材を使用した機能的なアイテムであることが求められます。

素材はゴアテックスなど、防水・撥水・防風・透湿機能のあるレインウェアや、雪山用のジャケットが該当します。

雨を防ぐ「防水性」 、寒さから体を守る「保温性」、風を遮る「防風性」が主な性能。それぞれに特化したウェアは、レインウェア(雨具)、インサレーションウェア(保温着)、ウィンドシェル(ウィンドジャケット)など分類されています。

4 状況に合わせて服の枚数は適宜調整する

レイヤリングの基本は3つのレイヤーを重ね着することではありますが、常に3レイヤーを着る必要はありません。

多く汗をかいた時などはベースレイヤー1枚だけでも十分なこともあります。

しかし標高の高い山を登れば登るほど気温は低くなり、真夏でも寒さを感じることがあるため「夏場だからベースレイヤーだけで登山する」という考え方は危険かもしれません。

出来れば汗をかく前に脱ぐ、寒さを強く感じる前に着るなど対処を行いましょう。結果としてオーバーヒート、過度の発汗による汗びえや低体温症(ハイポサーミア)を防止することができます。

5 レイヤリングの組み合わせ例

レイヤリングの組み合わせ方は様々。登山着を楽しむための醍醐味とも言えるでしょう。

日差しが強い日中、運動量の多い日などはミドルとベースを、稜線上での行動など、風、雨、雷があり気温が低い時はアウターとミドルとベースを使用するなどの基本的な組み合わせ以外のレイヤリングも可能です。

例えば、各レイヤーを1枚ずつ重ねるだけでなく、寒いときはミッドレイヤーを薄手のものと厚手のものを重ね着したり、アウターレイヤーもウインドシェルの上にオーバージャケットを着るなどのレイヤリングも効果的でしょう。

6 ボトムスにもレイヤリングが必要

レイヤリングの考え方は実はボトムスにも適用されます。

下着はベースレイヤー、パンツはミッドレイヤーとして考えて差し支えないでしょう。

ボトムスに関しても、時にはレイヤリングが必要なのです。

基本的にはトレッキングパンツを着用しますが、寒い季節にはインナータイツを、雨や雪のシーンではレインパンツやシェルパンツを履きます。

雨が降り出したらそこにアウターレイヤーのレインパンツを重ねて、泊りがけの山行では時期に応じてインサレーションパンツを用意しましょう。

ミッドレイヤーにあたるパンツには脚を保護する役割もあるので、登山ではロングパンツを選択するのがおすすめ。

どうしてもショートパンツで行動したいときは、状況に応じて脚部分を切り離せるコンバーチブルパンツを検討してみてください。

ボトムスでの体温調節は、アウターパンツ(オーバーパンツ)で行うのが一般的。

風が出てきて寒さを感じたらレインパンツを履き、暑くなったら脱ぐ、といった具合に、こまめな脱ぎ着ができるため。

その一方で、インナータイツには脱ぎ着しにくいという欠点も。一度履いて歩きだしてしまうと、暑くなり脱ぎたくなったときに、靴を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、タイツを脱ぐという手間がかかってしまいます。気候や登山場所などを考慮して組み合わせを検討してみてください。

状況に応じたレイヤリングで登山をより楽しむ

季節に応じて美しい景色を楽しませてくれる風光明媚な山容ですが、反面気候が変わりやすく過酷な一面も併せ持っています。

正しくレイヤリングアイテムを選択することで、快適に山を楽しむことができるはず。

お気に入りのアイテムを重ねて山々を歩く時間を是非楽しんでください。

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