山の水を飲み水にする方法を知って安全な登山を
COLUMN | 2023.03.02
登山時に飲み水が不足してしまうと、安全に登りきれないどころか命の危険にもつながります。水が登山においてどれほど重要で、どれほどの量が必要か、事前に把握しておくことが大切です。
今回は登山を安全に楽しむため、水の重要性や汗との関係性について解説します。万が一登山中に飲み水が足りなくなった場合の対策も紹介しているので、計画中の登山をより安全に楽しむための参考にしてください。
1 登山における「水」の重要性
登山中は汗をかくため、こまめな水分補給が大切です。特に暑さの厳しい夏山登山や、気温が地上と大差ない低山を登る場合、歩き続けるだけで大量の汗をかきます。
水を定期的に飲まないと熱中症になるため、登山中に水を用意しておくことは非常に重要です。また登山中の水は、飲み水以外として活用できる場合もあります。転倒時に着いた泥汚れを落とす場合や、人体に有害な植物・虫に触れた際、患部を洗い流すためにも役立ちます。
水だけだと飽きてしまうことを想定し、道中にコーヒーやお茶を沸かすため水を持っていくのもおすすめです。ちなみに、登山をスポーツ感覚で捉えている人は、スポーツドリンクを持っていこうと考えるかもしれません。
スポーツドリンクも熱中症や脱水症対策に有効です。しかし、後味が気になったり、反対に喉が乾いてしまったりするため、持参する飲み物をすべてスポーツドリンクにすることは避けた方がいいでしょう。
水は、日常生活においても非常に重要な役割をもつものです。水道のない山道において、飲み水はもちろんその他の要素でも水が大切であることを理解しておきましょう。
2 登山に必要な水の量
登山に必要な水の量は、天候や気温、登山ルートや所要時間、自身の体型などによって異なります。その点を踏まえて、以下の計算式を活用すれば、ある程度必要な水の量を算出することが可能です。
登山に必要な水の量=体重(kg)×所要時間(休憩時間も含む)×5(ml)×70〜80%
体重60kgの人が6時間登山に時間をかけると想定した場合、必要な水の量は1.2〜1.8リットルということになります。上記の計算式に自身のデータを当てはめて、必要な水の量を把握しておきましょう。
3 登山における「水」と「汗」の関係性
登山で必要な水の量は、汗をかく量との関係性が深いことをご存じでしょうか。汗をかくことは「体の水分を失うこと」と同義です。発汗で失った水分を、飲み水で補うという関係性が成り立つことを覚えておきましょう。
自身が汗っかきだと認識できていれば、上述した計算式で導き出した水の量よりも、少し多めに持っていこうという思考になります。水と汗の関係性やバランスを意識したうえで、最適な量の水を持っていくことが大切です。
ちなみに、失う水分と摂取する水分のバランスの摂り方を把握していない方も多いでしょう。「日本山岳ガイド協会」では、水と汗のバランスを以下の計算式で求めています。
給水量(摂取する水の量)=脱水量(発汗する量)×0.70~0.80
必要な水の量は、かいた汗の量の7〜8割ということになります。
次に、大体の発汗量を把握するためには、以下の計算式を使用します。
脱水量=体重(kg)×行動時間(h)×5(ml)
仮に、体重が60kgの人が6時間行動した場合だと、汗の量は以下の通りです。
脱水量=60(kg)×6(h)×5(ml)=1800ml
ここで導き出した発汗量を、必要な水の量を算出する式に当てはめると、以下の結果が出ます。
給水量=1800ml×0.70~0.80=1260ml~1440ml
体重60kgの人が登山に6時間費やす場合は、調理用・予備の水を含めて、上記の量よりも数100ml多めに持っていくのがおすすめです。
4 登山中に水が足りなくなったら山の水を飲み水に
万が一登山中に水が足りなくなったら、山の湧き水を飲み水にしてください。ここでは、山の水を飲み水にする方法やリスクについて解説します。
4-1 山の水を飲み水にする方法
山の水を飲み水にするには、バーナーで水を沸騰させる「煮沸」で滅菌する方法が挙げられます。煮沸とは、山の水に含まれる菌を死滅させるため、5〜10分ほど沸騰させる方法のことです。
確保した水を容器に入れ、バーナーにかけて沸騰させるだけで飲み水が確保できます。
煮沸は安全に飲み水を確保できる方法ではあるものの、バーナーを持ち歩いたり煮沸に時間がかかったりする点がネックです。煮沸せず飲み水を確保したい場合は、小型の「浄水器」を使用しましょう。
浄水器であれば、フィルターを通して濾過するだけで飲み水を確保できます。日本の正規代理店から販売されているものであれば、食品衛生法をクリアしているので、安心な飲み水を簡単に用意することが可能です。
4-2 山の水を飲み水にするリスク
山の水をそのまま飲み水にしてしまうリスクは、病原菌や不純物を体内に取り入れてしまうことです。そのため、煮沸や浄水器での濾過をしっかり行い、綺麗な水にしたうえで摂取しなければなりません。
山の水には、動物の糞や死骸から発生する有害物質が含まれている可能性があります。感染症や下痢の症状を引き起こす大腸菌やクリスプトポリジウム、キタキツネの糞から感染するエキノコックスなど、山の水をそのまま飲むことは重大な病を発症するきっかけにもなります。
また、沢の上部にテントや山小屋がある場合、生活水や糞尿が流れ込んできている可能性もあるでしょう。煮沸や濾過が面倒と感じることもあるかもしれません。
しかし、重大な健康被害につながるリスクを加味し、山の水はしっかり綺麗にしたうえで飲むことを心がけてください。
登山時は飲み水の確保が非常に重要
登山時は汗をかくことが多いため、発汗量とのバランスを把握しながら必要な量の飲み水を確保することが大切です。
今回紹介した計算方法を参考に、登山に必要な水を確保したうえで登山を決行してください。また、万が一登山中に水が足りなくなった場合は、煮沸や濾過を行い、山の水を飲み水にしましょう。
山の水をそのまま飲むことは健康への被害が懸念されるため、しっかり綺麗な水にしたうえで飲み水として持ち運ぶべきです。
今回紹介した内容が、登山時の水不足における懸念を解消するきっかけになれば幸いです。