【POLEWARDS×TOYOTA】「究極のモノづくりとは」〜そして辿りついた〜

COLUMN | 2022.12.27

2022年12月10日、愛知トヨタ高辻店にて行われたPOLEWARDS荻田氏、TOYOTA亀山氏、モータージャーナリスト九島氏の3名によるト-クイベントの様子をお届けします。

1 「究極の車作り」を目指すトヨタ自動車と「究極のモノ作り」を目指すPOLEWARDSの邂逅

九島:では早速始めていきたいと思います。

まず荻田さんにお伺いします。

「冒険家」と一言で括っても様々だと思うのですが。簡単にどのようなことをされているのか教えていただいてもいいでしょうか?

 

荻田:簡単に自己紹介をすると、北極や南極を主に一人で歩いています。

ボートに食料などを積んで引っ張って歩いています。

現地ではサポートするチームがいるというわけではなく、一人で引っ張って歩いています。

このような極地冒険ということをこの20年近く続けております。

 

九島:ありがとうございます。では亀山さん、簡単に自己紹介をお願いします。

 

亀山:「SUV事業性」という組織におりまして、RAV4、カローラクロス、ヤリスクロスなど様々なSUV車に横串を刺し、SUV群としての一括企画を練って車を面で創っていくような仕事をしております。

 

九島:本日はまさにRAV4、カローラクロスが展示されていますね。

今日のイベントの趣旨を改めて皆様にご紹介していただけますでしょうか。

 

亀山:今回のイベント趣旨ですが、ご覧いただければ一目瞭然かも知れませんね。笑

究極の車作りを目指すトヨタ自動車が、究極のモノ作りを掲げるPOLEWARDSとコラボレーションをすることで、ファンの方々にもっと車の価値を感じただきたい、もっと楽しんでいただきたいと考えました。

しかしこのコンセプトだけにとどまるのではなく、実際に車にしてお伝えしたいと考え、今回のイベントを開催させていただきました。

九島:なるほど。アウトドア領域のブランドは世の中に数多くある中で、POLEWARDSというブランドはなかなかディープなブランドですよね。

まず荻田さんとPOLEWARDSの関係性について教えていただいてもいいでしょうか。

 

荻田:まずPOLEWARDSというブランドについて簡単に説明しますと、POLEWARDSの歴史を遡れば日本が1956年に第1次南極観測隊を派遣した際に上着を提供した会社に繋がるんです。

最初の遠征チームに装備のサポートを行った当時は機能的で暖かい上着を作れるメーカーは日本にほとんどなかった。

その際に羽毛布団屋さんに声をかけて、そこの衣料品部門が衣服を提供したんですが、ここが現在のPOLEWARDSとして製品を作っています。

なので日本で一番古いダウンジャケットメーカーなんです。

あとこれも1956年ですが当時8,000m峰で日本が唯一登頂に成功した「マナスル」という山がありまして、そのマナスルの初登頂の時の衣服も作っていたんです。

画像はマナスルの初登頂に使用されていた衣服(右側)

 

南極も8,000m級の山も同様に羽毛布団並の暖かさが必要だというニーズに応えて衣服を提供していたんですが、このブランドはこんな感じでずっと特殊なことばっかりやってるんですよ。笑

なのであんまり一般のユーザー向けに商品を作ってこなかったんです。対して特殊な環境で磨かれてきたメーカー、ブランドなので、技術力はとても高い。

私自身は10年ほど前にPOLEWARDSと出会ったのですが、その際にこれは面白いなと感じまして。

機能面はもちろんなんですが、バックグラウンドも含めて魅力を感じて、今では極地に赴く際の衣服を作ってもらっています。

2 極地を進むためのウェアにとって「究極」とは何か

九島:ウェアとしてある種「究極」を目指して作られたブランドだと思うんですが、荻田さんにとっての究極とはなんでしょうか?

 

荻田:例えば、ウェアに関しての究極とは何かと考えてみます。

北極や南極を歩いていると-40℃、-50℃などの気温は普通のことなんですね。

そんな環境での活動を支えるウェアなんで「さぞモコモコなんだろう」とか「すごく暖かいんでしょ」とか思われることが結構あるんですが、実際そんなことないんです。すごく薄いんです。

今展示しているジャケットは実際極地に行った際に着用していたものなんですが、よかったら触ってみてください。

画像は荻田氏が極地を歩く際に使用していた衣服

 

九島:本当だ!すごく薄いですね!

 

荻田:そうなんです。このジャケットには中綿は一切入っていないんです。なぜかと言えば汗が溜まってジャケットの中で凍結しまうから。

極地では食料などを積載したソリを引っ張って歩くわけなんですが、2ヶ月分ほどの生活を想定しているため荷物が多い。

簡単に言うとすごく重いんです。

100kgから130kgほどの重さのソリを引いて歩くことになるんですが、運動量が激しいので-40℃、-50℃の環境とはいえ汗はかきます。

もし中綿や羽毛が入ったジャケットを着てしまうと、この汗が中に入ってしまって凍るんです。

しかも2ヶ月間ずっと極地なので汗で濡れたジャケット乾燥させることもできません。ということは中綿や羽毛を入れちゃダメなんです。

ということは、1枚1枚は薄着ながらもレイヤリングして温度に対応していく必要がある。

私の中でウェアに対する概念として最も大事だと考えているのは、暖かいということではないんです。一番大事なのは体温調整ができること。

体温調整ができるということは暖めることも、冷やすこともできるということ。冷やすということは発汗を抑えることにもつながります。

私が極地で着用したジャケットは暖かいジャケットではないですが、体温調節を効率的に行えるジャケットではあります。暖めることも冷やすこともできる。

これが私がウェアに求めている究極の形ですかね。

3 極地であえて綿を使用するという「発想の進化」

亀山:一つ質問があるんですが、荻田さんが求めるウェアとしての機能や材質は最初から備わっていたものなんでしょうか?

 

荻田:いいえ、様々な試行錯誤がありましたね。

 

亀山:極地に適応して、場所場所に合わせて衣料も進化していく、変化していくということもあるんですね。

 

荻田:そうなんです。ちなみに、この赤いジャケットの素材は何かというとコットン(綿)なんです。

現代では機能素材、化学繊維の衣服をよく見かけると思いますが、このジャケットに使用されているのは人類で長い歴史のある天然素材である綿なんですよ。

アウトドア用のアウターでは防水透湿素材がよく使われますが、結論から言ってしまえば極地でその性能は全く発揮できません。

防水透湿素材の衣服はおよそ-20℃を下回る環境だと中で結露してしまいます。透湿できないんです。

さらに極地では雨が降らないので防水機能はいりません。笑

この機能が搭載されている服を着ていても意味ないんです。

昔は防水透湿素材のウェアを使用していたこともありましたが、一日歩くとジャケットの中から野球のボールぐらいの大きさの汗の結晶がボロボロ出てくるんですよ。笑

とはいえ汗はかきますし、その汗を処理しなくてはならない。

これに大変困っていたんですが、POLEWARDSの担当者と打ち合わせをしていた際に「綿はどうだろう?」って話になりまして。

ベンタイルという綿を高密度に編み上げた素材があるんですが、このベンタイルはどうなんだろうかと。

防水透湿素材は衣服の上にフィルムを貼って機能を追加しているんですが、このベンタイルは綿を編み上げているのでフィルムなどは貼られていません。

布である限りは水を吸ってくれて外気に発散してくれるので、これはいけるかもしれない!と思い試してみました。

結果として極地においては機能素材よりもはるかに汗の処理がしやすかったんです。

衣服もそうなんですが、機能素材や化学繊維などを生み出して進化している感覚を覚えるんですが、結局はまた戻るんですよ。

進化したようでまた戻ってくる。

これは使い方を変えた、発想を変えたということかなと思っていまして「素材が進化した」というよりも「発想が進化した」ということになるのかなと。

文脈が変化すると言いますか。

九島:今の話を聞いているとTPOに適したものの重要性、多様性や柔軟性が求められるんだなと。

 

荻田:そうですね、特に綿はアウトドアの世界では悪者なんですよ。笑

綿のTシャツは乾きが悪いので登山していると汗を吸収して冷えてしまって低体温症になってしまったり。

確かにそうなんですよ。

野外活動において「綿」という選択肢は始めから頭にないんですよ。
私が綿のジャケット着てるというとみんなびっくりするんです。笑

綿なんてダメでしょ!みたいな。

 

亀山:荻田さんの経験、希望に順応する衣服への進化という意味で、まさに今日のイベントのテーマ「Finally Found You」「〜そして辿り着いた〜」というキーワードと合致している感覚を覚えました。

 

九島:トヨタの車づくり、モノづくりとの親和性を感じたということですね。

 

亀山:まさにそうですね。

例えばレーシングカーなどではボルトの頭一つも削るんです。わずか1gであっても軽量化することで究極の速さに辿り着く。

一方で今回展示しているような車種はヘビーデューティーに使っていただいても耐えうるような造りになっています。

目的に応じて機能を突き詰めるという意味では衣服も車も同じなのかもしれません。

4 「道具」による身体の拡張性

九島:今回展示している車とPOLEWARDSとのコラボレーションですが、どのような意図があったのでしょうか?

 

亀山:今回はアウトドア用品などを組み合わせて展示していますが、あくまでもライフスタイルの一つとしてパッケージのような提案にしています。

お客様の様々な要望に応じて車の楽しみ方をどんどん「拡張」してもらいたいという想いがありました。

そのため私物のアウトドアグッズを持ち込んで展示したり、色々なグッズを作ったり、様々な角度から車の楽しみ方を模索しています。

 

九島:荻田さん的には今回のコラボレーションはどう感じられましたか?

 

荻田:面白いですね。先ほど亀山さんがおっしゃった「拡張」という言葉はすごくいい言葉だなと思います。

道具って人ができる物事を拡張するものなんですよね。

人間がどんなに頑張ってもある程度の速さでしか走れませんが、車を使えば時速50km、60kmと走ることができる。足を拡張するということです。

これは極地でも同じことが言えます。極地において野生動物は裸なんですが、人間は弱いので裸だと死んでしまいます。

ですが例えばウサギなどの野生動物は長い年月経過しても空を飛ぶことはできません。

でも人間は道具を作ることで空を飛ぶことができるんです。

身体性を拡張していくには、まず道具に頼る必要がある。その後は道具を手放していくことも必要だと思っています。

自分の身体機能が拡張した段階で一度手放す、その時点でその時に適した道具を使うともっと遠くまで行けると思っています。

だから「拡張」というキーワードは面白いなと思いました。

車という道具にスポットを当てても、その道具が楽しませてくれるわけではなくて、人間が道具を使って楽しわけですよね。

きっと亀山さんもそのような意味でおっしゃっていたのかなと。

 

亀山:実際「拡張する」「変化する」ということは実は意識しています。

SUVをはじめ個車ごとの特性や楽しみ方はあるんですが、もう一段拡張して、その他のトヨタ車との繋がりをどう創り上げるかという意味では非常に大切なキーワードです。

 

九島:荻田さんは今回のコラボレーションで新しく発見されたことはありますか?

 

荻田:POLEWARDSは職人気質なところがあって。モノづくりへのこだわりや品質は目を見張るものがあるんですが、その良さを伝えていくという意味ではまだまだ挑戦できることがあります。

今回のコラボレーションではこのような方法で知っていただくことも可能なんだなと感じましたね。

最後に

今回はたくさんの方が足を運んでくださった当イベントの様子をご紹介しました。

当日はPOLEWARDS×RAV4、カロ-ラクロスに加えてPOLEWARDS22FW商品の展示、荻田氏の北極遠征時着用されたウェアやギアを展示させていただきました。

これを機により多くの方に各社の想いが届けば幸いです。

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