雪山登山に潜むホワイトアウトの危険性

COLUMN | 2023.02.06

視界をほぼ全て遮ってしまう極めて危険な現象ホワイトアウト。

極地や豪雪地帯、登山中にのみ発生する現象ではなく、日常でも発生する可能性があります。

雪山登山を計画するうえではもちろん、日常生活においてもホワイトアウトの危険性を理解し対策を検討しておく必要があります。

  • ホワイトアウトがどのような現象なのか
  • 発生する原因とは何か
  • 遭遇した際の注意点
  • 登山時の危険性および事前に準備すべきこと
  • 日常でホワイトアウトに遭遇してしまったら

など幅広く解説していきます。

1 「白い闇」とも呼ばれるホワイトアウトとは

ホワイトアウトは風と雪により視界が覆われ、一面真っ白になった状態のことです。一瞬にして方向や地形が判断できなくなることから「白い闇」とも言われている程。

気象学的には「雪と風」によって視界一面が真っ白になった状態、または「雪と雲・霧」によって視界一面が真っ白になった状態を指します。

吹雪とは異なり、強風で雪が舞い上げられた状態もホワイトアウトに該当します。強風が発生している際の雪山で多くみられ、後ほど触れる様々な危険性に繋がる現象です。

2 ホワイトアウトに遭遇するとどのようになるのか

簡単に言ってしまえば、視界のほとんどが見えなくなってしまいます。

ホワイトアウト状態になると、数十メートルはおろか、数メートル先、時には数十cm単位など目の前にあるはずのものさえ分からなくなってしまいます。

その名の通り視界の全てがホワイトになってしまうのです。

特に極端な場合、東西南北・進行方向・道路の位置さえ見失ってしまうため、非常に危険な現象と言えるでしょう。

3 ホワイトアウトはなぜ発生するのか

ホワイトアウトが発生する原因は様々ですが、大別するならば

  • 暴風雪や暴風雨
  • 地吹雪
  • 濃い霧

3つに分けることができます。

また、雪粒が結合しにくく水分が完全に凍って雪が移動しやすい-2℃未満の低温下で、なおかつ強風時に発生しやすくなります。

ただし、風が弱く気温が高くても雪片が大きなボタン雪がたくさん降ると、雪片に視界が遮られてホワイトアウトが起こることも少なくありません。そのため気温が高くて風が弱くても油断は禁物です。

また降り積もった雪が強い風によって巻き上げられる、地吹雪によって起こるホワイトアウトは晴天でも発生することも覚えておきましょう。

4 ホワイトアウトが発生しやすい状況

ホワイトアウトは極地や豪雪地帯でのみ発生する現象ではありません。積雪時はもちろん、新幹線や高速道路など吹雪を遮る物体がない場所で発生する可能性があります。

下記の条件に当てはまる場所では特に注意しましょう。

  1. 気温… 低温で雪が粉のように舞いやすい場合。具体的には-2℃以下の条件で特に発生しやすい傾向に。
  2. 風…概ね「8m/s」以上の風が吹く条件で発生しやすく、風が強くなるほどリスクは高い。北海道や東北の海沿いの冬季では気温、風は条件に長期間該当する。
  3. 降雪…雪が強く降っている場合。雪がそれほど強くない場合、降っていない場合でも「地吹雪」によって発生する場合あり。
  4. 積雪…積雪量に関係なく発生の可能性あり。積雪が多い場合、道路沿いの「雪堤」の高さとドライバーの目線の高さが近くなり、雪が吹き出す可能性が更に向上する。
  5. 現地環境…広大な平地(平原)を走る道路など。吹雪を遮る樹木、森、建物などが少ない場所ほど要注意。

5 ホワイトアウトによる登山時の危険性

登山におけるホワイトアウトはより危険性が高まる可能性があります。

  • 視界が奪われる
  • 方向を見失う
  • 足跡(トレース)が消えてしまう
  • 平衡感覚が失われる

など、一歩間違えば命に関わる恐れがあります。雪山登山を計画するうえでは、ホワイトアウトによる危険性について把握しておくことは必須でしょう。一つ一つ確認していきます。

5-1 視界が奪われる

雪が舞い上がることで、視界全体が真っ白に覆われてしまいます。強風も伴うことから、場合によっては目が開けない状態になってしまうかもしれません。

もしも複数人で登山している場合は、瞬時に全員を把握することは困難になります。まずはパニックにならないように冷静に行動することを第一に考えてください。

5-2 方向を見失う

ホワイトアウトになると目の前も見えなくなるため、発生前に設定してた目的地や方向を見失ってしまいます。

だからと言って闇雲に進もうとするのは要注意。人間には「目標物がない状態だと同じ場所を回り続けてしまう」という習性があるようです。これを「リングワンデルング」と呼びます。もし利ワルディング状態を続けてしまうと当然ながら目的地に辿り着けず、雪や風で視界と体力が奪われ続けてしまい大変危険です。

5-3 足跡(トレース)が消えてしまう

雪山を登り慣れているベテラン出ない限り、先行者の足跡を頼りに歩く方が多いはず。しかし強風と雪により、先を歩く人の足跡が消えてしまいます。また、自分が進んできた足跡も消えてしまうため、来た道に戻ることも困難に。

5-4 平衡感覚が失われる

足元が見えなくなるほどのホワイトアウトでは、平衡感覚すら失われてしまいます。立っているのかどうかも自覚できないような、不思議な感覚に囚われてしまうでしょう。上下左右、東西南北も不確かな状態に。視界も奪われ、目的も見失っている状態であるため、登山を続けることは非常に危険です。

6 登山におけるホワイトアウトへの3つの備え

登山中にホワイトアウトに遭遇してしまうと非常に危険。だからこそ遭遇してしまう前に事前の準備が大切です。ホワイトアウトに遭遇する前にしておくべき準備を理解しておきましょう。

6-1 雪がない状態の登山コースを把握しておく

雪山に初めて登る方はもちろん、登る山を熟知していない方は事前に無積雪期に登山をしておくのもおすすめ。地形やルートを把握し、危険なポイントなど積雪をイメージしながら登ります。

その際に、万が一ホワイトアウトなど危険な状況になったら、避難できるビバークポイントもチェックしておきましょう。

ビバークについて詳しく知りたい方はコチラをご覧ください。

6-2 地図の読み方、コンパスの使い方を身につけておく

紙の地図を持参し、コンパスを使用することで正しい方向に進めるようにしておきましょう。

急な天候の変化に伴う降雪、ひいてはホワイトアウトとなると当然ながら簡単にスマホを使うことは不可能です。悪天候の雪山ではグローブを外し、スマホを操作すると凍傷を引き起こす危険も。また、スマホのバッテリーは低温化に弱いため起動しなくなる可能性も考慮しておきましょう。

だからこそ紙の地図を読みルートを作成する技術、それを実現するためにコンパスを使用する技術が求められます。

他の方の足跡に頼ることなく、突然の天候の変化でも目的地を見失わないよう「ホワイトアウトナビゲーション」を作成し、使えるよう練習しておくことが大切です。

最近では登山用GPSやGPSウォッチなどのアイテムが提供されているので、備えておくとより安心です。

6-3 雪山登山における経験と知識、体力作り

森林限界を超えた標高でホワイトアウトに遭遇した場合、周囲が完全に真っ白になり身動きがより困難に。

「絶景を見たいから」という理由で安易に雪山登山に挑戦してしまうのは実は危険なのです。

そのため、まずは標高が低い山の雪山や、樹林帯中心の山で登山の経験を積んでみてください。雪山は暖かい時期の登山とは異なる知識や体力、経験を必要とします。

ホワイトアウトが発生したとしても慌てることなく対処できるように、徐々に雪山登山で練習を重ねてみてください。

7 雪山でホワイトアウトに遭遇した場合の対応策

前述のようにホワイトアウトの危険性を理解したとしても、当日になってみないと発生するかどうかは分かりません。ホワイトアウトが発生してしまった時は下記を意識してみてください。

7-1 視界が奪われてしまったらその場で待機

ホワイトアウトが発生すると視界が奪われてしまうでしょう。しかし決して焦ってはいけません。まずはそこから動かないようにしてください。

ホワイトアウトは、一時的で長時間続かない場合も少なくありません。風と雪が収まるまでその場にじっと待機し、現在地を見失わないようにしましょう。

7-2 複数人で登山している場合はロープで繋ぐ

一人で行動している場合には無理ですが、パーティで登山している場合は非常に有効な手段です。視界が極端に狭い場合パーティの仲間とはぐれるリスクが考えられます。声を掛け合いながらお互いをロープで結んで行動するのも有効です。

7-3 体温を落とさないことを優先する

しかしなかなかホワイトアウトが収まらず、長時間待機する可能性も十分に考えられます。その場合は体温を落とさない工夫が必要です。長時間動かないままでいると、人間の体温はあっという間に下がってしまいます。

衣服で対応できる温度には限度があり、さらに運動しようにもその場を動くことができない状態の中で体温を以下にして向上させるかを検討する必要があります。例えばスコップで穴を掘るなど、その場で動くことで体温を上昇させることが可能です。

7-4 ホワイトアウトだけでは命に危険が及ばないことを意識し、冷静に

ホワイトアウトが発生すると、どんなベテランでも焦ってしまう恐れがあります。ホワイトアウトが発生しただけでは、基本的に命に危険は及びません。慌てて行動し、現在地や目的地を見失うことが命の危険につながってしまうのです。

ホワイトアウトが発生しても決して慌てず、冷静に行動しましょう。

8 日常でホワイトアウトに遭遇してしまった場合の対処法

ホワイトアウトは登山時にのみ発生する現象ではありません。日常生活でも十分発生しうる危険な現象です。

気象情報では「強い冬型の気圧配置」「暴風雪」「大雪」「低温」といったホワイトアウトの発生しやすい条件が予測された場合、様々な形で注意が呼びかけられているので情報をキャッチすること自体は決して難しくありません。しかしどうしても外出が必要な場合なども想定できます。

万が一外出中にホワイトアウトに遭遇してしまったら、下記の対応を参考にしてみてください。

8-1 一般道路を運転中にホワイトアウトに遭遇してしまった場合

まずハザードランプ、ヘッドライトの点灯は必須。

前方車両が見えなくても危険度が低くなるよう「低速度」で走行しゆっくり減速しましょう。また、ハイビームは効果的に思えますが、実は視界をより悪化させる可能性が高いため避けましょう。安全な場所に停車し、避難可能な場合道の駅やコンビニ、店舗など建物内で待機してください。

8-2 運転不能な状態の場合

万が一走行不能な状態になった場合は国土交通省の「道路緊急ダイヤル」#9910に連絡してください。

状況が切迫していたり、事故が発生したような場合は警察及び消防に連絡しましょう。

また後述しますが車内での待機は危険な可能性があるため、注意が必要です。

8-3 車中で待機する場合

車中で待機する場合は特に注意が必要です。理由は地吹雪や新雪で車がすぐに埋まりやすいため。として結果「排気ガス」の逆流による一酸化炭素中毒のリスクが想定されます。

窓やドアが開く状態(脱出可能)か、排気口が埋まっていないかを頻繁に確認してください。さらに、装備がない状態で長時間の待機はほぼ不可能と考えてください。低体温症のリスクが考えられます。

状況が厳しい場合は緊急ダイヤルや警察、消防など関係機関へすぐに連絡してください。

8-4 高速道路でホワイトアウトに遭遇してしまった場合

一般道でホワイトアウトに遭遇した場合と同様に、まずハザードランプ、ヘッドライトの点灯は必須です。ブレーキによる急減速は事故発生リスクが高いため、落ち着いて対応しましょう。無理な停車は事故発生につながるため、ゆっくり速度を落として安全な場所まで進みます。

パーキングやサービスエリアなどがあればそこで待機しましょう。

ホワイトアウトに遭遇してしまったらまずは慌てず、冷静に対処を

雪山登山対策としてはもちろん、日常でも発生し得る危険な現象ホワイトアウトの危険性について触れてきました。まずは「慌てないこと」が最優先です。慌てて行動してしまうと命に関わる恐れがあります。とにかく冷静にゆっくりと判断しましょう。

しかしホワイトアウトの後は天候が急に良好になり非常に美しい景色が目の前に現れることも珍しくありません。美しい景色を見るためにもホワイトアウトの対策を頭に入れておきましょう。

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