世界遺産登録30周年を迎えた「白神山地」と「屋久島」の魅力

COLUMN | 2023.08.08

世界的に重要な文化や、自然遺産を保護するために1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産。日本は1993年に締結国として仲間入りを果たし、これまで多くの自然や文化が世界遺産として登録されてきました。

国内初の世界遺産は計4ヶ所。文化遺産として登録されたのは奈良の法隆寺と、兵庫県に位置する姫路城。自然遺産に登録されたのが鹿児島県に位置する屋久島と、青森県と秋田県に跨る白神山地です。

これらの国内初の世界遺産は今年で30周年を迎えました。

今回は、日本初の世界遺産の中で自然遺産に登録された屋久島と白神山地について、その魅力などに触れていきます。

1 日本初の世界遺産に登録された白神山地とは

世界遺産に登録されている白神山地は、青森県と秋田県に跨る広大な山岳地帯。このうち人の手が加わることなく、原生的なブナ天然林が東アジア最大級の規模で分布しています。

このブナ林には多種多様な動植物が生息・生育しており、世界的にも高く評価されてきました。

白神山地の地質は、9,000万年前にできた花崗岩が基盤になっていると言われています。そこに2,000万年前から1,200万年前頃の堆積岩と、それを貫く貫入岩類で構成されました。

様々な山々が連なる山塊で、主な山は以下の通り。

  • 青鹿岳(標高1,000m)
  • 魔須賀岳(標高1,012m)
  • 天狗岳(標高958m)
  • 白神岳(標高1,235m)
  • 最高峰の向白神岳(標高1,250m)
  • 二ツ森(標高1,086m)
  • 真瀬岳(標高988m)
  • 雁森岳(標高987m)
  • 小岳(標高1,042m)

このように標高千メートル級の山々で構成されているのが白神山地です。

2 白神山地の特徴

白神山地の魅力は前述した通り、東アジア最大級の規模で生い茂るブナ天然林。

ここにはブナーミズナラやサワグルミなど、多種多様な植物が生育しています。その他にもカツラやハリギリ、アサダなどの大木も見られ、白神山地には約540種類を超える植物があると言われています。

多くの動物や昆虫類が生息していることも魅力の一つ。

天然記念物にも指定されているクマゲラの他に、ツキノワグマやニホンザルなど4,000種の生き物が生息していると言われています。昆虫類は約2,300種類が確認されており、多くの動植物が白神山地には共存しています。

また十二湖と呼ばれるブナ林に囲まれた33の湖沼群も魅力。

古くに発生した大地震により山崩れがおきたことでできたと言われているもので、崩山から眺めると12の湖沼が見えたことから十二湖と呼ばれるようになりました。

その中でも有名なのが神秘的なコバルトブルーに輝く「青池」。その他にも青森県の名水に選ばれている、鮮やかな青色の湖水が美しい「沸壷の池」も人気スポットです。

3 白神山地への入山する際の注意点

3-1 白神山地の登山ルートについて

白神山地には登山などの入山も可能です。

多くの登山ルートが用意されており、初心者でも楽しむことができます。ただ世界遺産に登録されているエリアは、自然環境への影響が生じないように入山が規制されているので注意が必要です。

世界遺産エリアを通る登山道は、青森県側からの27の指定ルートが用意されています。秋田県側の指定ルートはないので、登山目的での入山は控えましょう。

また自然環境保護の観点から、歩道の整備は行なっていません。その他にも道標や案内板もなく、場所によっては危険が伴う箇所もあるため自分のレベルに応じてチャレンジしましょう。

3-2 登山目的で入山する際に必要な「入山届出書」

27の指定ルートを利用する際は、「入山届出書」を提出する必要があります。

届出方法は郵送による届出と、直接持参し届出を行う2通りです。

郵送の場合は入山希望日の一週間前までに、指定ルートを管理する以下の場所に入山届出を郵送しましょう。

  • 津軽森林管理署
  • 鰺ヶ沢森林事務所
  • 岩崎森林事務所
  • 砂子瀬森林事務所

入山届出書の内容を審査基準に則り確認されます。入山日までに「入山できない」場合のみ連絡がきます。そのため連絡がない場合のみ、届出が受理されたと判断してください。

直接持参する際は入山当日までに上記の場所もしくは、以下の機関に届出をしましょう。

  • 環境省西目屋自然保護官事務所
  • 白神山地ビジターセンター
  • 鰺ヶ沢町役場
  • 深浦町役場
  • 深浦町役場岩崎支所
  • 西目屋村役場
  • アクアグリーンビレッジANMON

各種機関ごとに開庁時間が異なりますので、あらかじめ確認しておきましょう。

直接持参の場合は、その場で入山できるかどうかの審査が行われます。入山時は届出書の写し等を携帯し、東北森林管理局職員や巡視員から請求があれば、写しを提示してください。

4 白神山地での7つの入山マナー

白神山地を訪れる際は、次世代に受け継ぐべき価値ある自然環境への配慮が大切です。入山する際はマナーを守り、豊かな自然を楽しみましょう。

4-1 決められた場所以外の立ち入り禁止

白神山地で登山を楽しむ際は、あらかじめ定められた指定ルートを歩きましょう。

写真撮影は問題ありませんが決められたルート内で行ってください。

ルートから外れることで、植物を踏み荒らしたり道に迷ってしまうなんてことも想定されます。一度踏み跡がついてしまうと、そこに植物が生まれることは簡単なことではありません。

これまで引き継がれた自然の景観や、生態系を作り上げるコケや動植物を守るためにも注意が必要です。また決められた登山道でも危険な箇所が多く存在します。入山する際は装備や準備を抜かりなく行いましょう。

4-2 生育・生息する動植物を大切に

白神山地の植物は、採取や損傷することを禁止されています。これまで長い年月を経て育った、貴重な自然を保護するためにもルールを守りましょう。

また動物も数多く生息しています。その一つ一つが世界遺産の豊かな生態系を形成しています。そのため、動物の捕獲や危害を加えるなどの行為は避けてください。

餌付けをすることも禁止事項の一つ。人間の食べ物の味を動物が覚えると、生活場所やスタイルが変化してしまいます。これにより生態系が崩れる恐れがあるので、食べ残した物も置いていかずに必ず持ち帰りましょう。

動物を撮影する際は適度な距離を保ち、生息する動物にストレスを与えないように注意してください。

4-3 ゴミの持ち帰り

入山する際は袋を持参し、必ず持ち帰ることが大切です。

ゴミを放置することで、自然体系や野生動物に影響を及ぼす恐れがあります。

4-4 トイレは入山前に

入山する前にトイレを済ませておきましょう。不安な方は携帯トイレを持参してください。

携帯トイレを忘れたなど、やむを得ない場合は穴を掘って埋めるなど後処理を行うことが大切です。

4-5 火気の取り扱い

山火事の原因にもなりますし、生態系に悪影響を及ぼす恐れがあるので焚き火やタバコは禁止です。

見られていないからと、油断すると大きな惨事になりかねないので避けてください。

4-6 ペットの持ち込み

白神山地では盲導犬以外のペットの同伴はできません。これは自然保護と、登山中の事故防止のためです。

貴重な生態系に影響を与えないためにもルールを守りましょう。

4-7 魚釣り

世界遺産に指定されるエリアでの魚釣りは禁止されていることを覚えておきましょう。

白神山地を源流とする4つの河川(岩木川、赤石川、追良瀬川、笹内川)があり、漁業及び遊漁の禁止区域に指定されています。

5 世界自然遺産登録30周年を迎えたもう一つの場所、屋久島

ここからは株式会社屋久島メッセンジャーの菊池淑廣氏がおすすめするスポットや、屋久島を楽しむための注意点などについてご紹介します。

樹齢数千年を超える屋久杉を含む原生林が今も生き続けている屋久島。そんな屋久島は東北の白神山地と同時に、日本で一番最初に登録された世界自然遺産です。

土壌の栄養が乏しい屋久島では屋久杉の成長が遅いため年輪が緻密で樹脂を多く含んでいます。そのため湿度が高い気候でも樹齢1,000年を超える屋久杉が朽ちるくことなく、長い時を生き続けてきました。

島の中央部には2,000mに迫る山々が連なり、沿岸部の亜熱帯から山頂部の冷温帯までの気候を作り出しています。

この標高によって移り変わる植生の分布は、まるで南北に伸びる日本列島の縮図とも言われています。一つの島でこれほど多様な自然分布が見られるのが屋久島の世界遺産である所以です。

南からの温かい黒潮が生み出す水蒸気が高い山々にぶつかり、多くの雨が屋久島に降り注ぎます。大量の雨は森を育て、人々の暮らしを潤し、海亀が集う砂浜をたどり、海へと戻っていきます。そして太陽の恵を得て水蒸気となり、再び山へと運ばれます。

この先人から受け継いできた屋久島の水を未来に手渡すため、今島民によって屋久島継承が掲げられています。その中心となるのが「いつでも、どこでも、美味しい水が飲めること」。

屋久島ならではの豊かな水源からクリーンなエネルギーを生み出し、人の手で育てられた自杉は、サステナブルな環境を創造し続けています。

6 屋久島の気候や特徴

鹿児島県の大隅半島佐多岬南南西約60kmの海上に位置する島である屋久島。周囲は約130km、面積は約500平方キロメートルほどの大きさです。

この広さを例えると東京23区ほどなんだとか。

もっとも標高が高い山は宮之浦岳で標高1,936m。これは九州最高峰で日本百名山の一つにも選出されています。

屋久島の特徴としては非常に雨が多い点が挙げられます。年間降水量は場所によって異なるものの、おおよそ年間4,700mmほど。東京の年間降水量が1,400mmほどと考えると、都会の約3倍強の雨が降ることになります。さらに南に行くと5,000mmを超え、山の上に行くと10,000mmを超えることもあるようです。

平地の年間平均気温は20度ぐらいと、亜熱帯性の気候です。しかし山頂まで行くと7度ほどにまで低下します。年間平均気温が7度台というと、札幌よりもやや寒いぐらい。これは亜寒帯の手前ぐらいの数字です。

7 屋久島を楽しむ際の注意点

日本の中でも極めて独特な特性を持つ屋久島。その屋久島を楽しむためには注意すべきことがあります。数々のポイントがある中でも、菊池氏が挙げる点をまずは理解しておきましょう。

7-1 降雨量

「1月に35日雨が降る」と林芙美子さんが表現したように、雨のイメージが強い屋久島。

晴天率が高いのは3月から5月半ばの春シーズン、10月の半ば過ぎから11月の秋シーズン。

しかし毎日雨が降っているわけではありません。雨の日と晴れの日はおおよそ半々ぐらいなんだとか。降雨量が非常に多いのは一回でたくさんの雨が降る時があるから。

ものの数十分で景観が大きく変わるほどの雨が降ることも珍しくないため、屋久島に訪れた際は注意が必要です。もしそのような雨に遭遇した場合は無理に進路を進まないようにしましょう。

屋久島は岩盤の島なので土の保水力が強くありません。そのため一気に水が増してしまいます。増水した中を歩くのは大変危険です。

しかしその反面水が引くのも早いという特徴も。

7-2 防寒対策

熱帯のイメージが強い屋久島ですが、実は春夏秋冬が非常にはっきりした島でもあります。

標高が高い山があり、山頂付近は北海道並みの寒さ。そのため雪も降る場所も。

冬でも比較的温暖な気候だと思われがちですが、冬に屋久島に行く際はしっかりとした防寒対策、雪対策が必要です。

8 屋久島でおすすめの観光スポット

屋久島は数々の見所が存在しています。一般的に有名なポイントはもちろん、現地の人しか魅力を知らないスポットなども多数存在しています。そこで屋久島に移住して19年、長く屋久島のガイドを行っている菊池氏がおすすめするスポットをご紹介していきましょう。

8-1 太鼓岩

白谷雲水峡最奥にある花崗岩の巨石である「太鼓岩」。白谷入口から約3キロ、標高1,050m地点にあり、季節ごとに異なる眺望が楽しめます。

特に春は地元民ですら見に行くほどの絶景。山桜のピンクや新緑の黄緑色、杉の緑など、美しい自然を楽しむことができます。

8-2 白谷雲水峡「奉行杉コース」

人も少なく、非常に美しいコース。自然のままの美しい森と苔を楽しめるルートです。 コース名になっている奉行杉をはじめ、三本槍杉など様々な屋久杉を観賞することができます。 このコースは本格的な登山道になりますが、苔生す森の景観も存分に楽しめます。

8-3 黒味岳

黒味岳は標高1,831mと、九州で6番目に高い山。頂上には驚くほど大きな花崗岩の岩塊が見られ、壮大な景色を楽しむことが可能です。

黒味岳登山は淀川登山口から片道約5km、往復の所要時間は6時間から7時間ほど。山頂から見渡せる奥岳の眺望や奇岩群、5月下旬から6月上旬に見られるヤクシマシャクナゲの群生、夏の高山植物など、屋久島登山の醍醐味が詰まっています。

8-4 ヤクスギランド

まるでテーマパークのようなカジュアルな名前に反して、非常に重厚な森が広がるヤクスギランド。苔が非常に美しい森が眼前に広がります。

この場所は屋久島の本来的な森が残っている場所でもあります。スタジオジブリ映画「もののけ姫」のイメージにもなったエリアとしても知られています。

白谷雲水峡も、縄文杉のルートも、実は一度伐採されています。これらは再生してきた森が広がっている「二次林」です。ヤクスギランドのエリアは伐採計画があったものの、昭和40年代になってその計画が変更に。

自然の環境がそのまま残るヤクスギランドは短いコース、長いコースなどたくさんの楽しみ方ができるコースです。

8-5 縄文杉

なんと言っても縄文杉は欠かせません。

長い道のりの疲れも吹き飛ぶほどの、深い感動を味わう屋久島のシンボルを目指すルートです。 縄文杉に出会うための「縄文杉登山」コースは、荒川登山口をスタートして前半は「トロッコ道」と呼ばれる運搬車両用の軌道を歩きます。

トロッコ道は縄文杉までの全11kmの内8kmの辺りまで続いています。そのため思い登山靴よりも歩きやすい軽い靴の方がおすすめ。

「トロッコ道」が終わると、本格的な山道となります。

9 屋久島で登山を行う際のマナー

屋久島で登山を行う場合、ローカル的なマナーを理解しておく必要があります。他のエリアの登山ではあまりないルールも存在するため、理解しておきましょう。

9-1 携帯トイレの推奨

屋久島はルートによってはほとんどトイレがないコースも存在します。

島全体で美しい水を保つために、必ず携帯トイレは持ち物に入れておきましょう。

9-2 ストックの先端につけるゴムキャップ

屋久島は花崗岩の岩盤が表面を覆っています。そのため土が浅く木は根を深く張ることができません。ストックに何も装着していないと木の根を傷つけてしまいます。

そのために必ず先端にゴムキャップを装着しましょう。

9-3 グッド・ ディスタンス10メートル

グッド・ ディスタンスとは野生動物の距離感に関する言葉。

動物にストレスを与えないために10メートルは距離を保ちましょう。

また、屋久島では猿への餌やりは条例で禁止されています。万が一餌を与えてしまった場合罰則対象になるので注意が必要です。

9-4 山の神祭り

林業関係者や、山に携わってる人は年に3回あるこの「山の神祭り」に参加します。その日は旧暦の1、6、9月の16日。この日は山に入らず神事を行います。そのため、この日は基本的にガイドもできないため注意が必要です。

もし屋久島観光を計画している場合、この日は避けた方がいいでしょう。

また、この日に自己の判断で無理に登山することは控えてください。

次世代に引き継がれていく日本の世界遺産

日本で初めて自然遺産に登録された、白神山地と屋久島。

白神山地は東アジア最大級のブナ天然林が特徴で、これまで長い年月を経て動植物が生育・生息してきました。屋久島では、樹齢数千年を超える屋久杉を含む原生林が今も生き続けています。

そんな国内を代表する自然遺産も登録されてから30周年を迎えます。自然の生態系の維持と自然保護のためにも、訪れる際はマナーを守って豊かな自然を未来に残していきたいですね。

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