地球を感じる写真を撮影する写真家、山本直洋氏の取り組み
COLUMN | 2023.08.08
「地球を感じる写真」をテーマにモーターパラグライダーによる空撮活動を行っている写真家、山本直洋氏の取り組みや、活動を始めたきっかけ、今後の展望など、様々な想いを伺いました。
1 空撮写真家を目指したきっかけ
小さい頃から空を飛ぶことに憧れがあって、物心ついた頃から空を飛ぶ夢を見ていました。
覚えている中で一番古い夢は、ウルトラマンに変身して空を飛ぶ夢ですね。ドラえもんのタケコプターで空を飛ぶ夢や、ドラゴンボールのキャラクターのように空を飛ぶ夢も見ていました。(笑)
中学生ぐらいの頃はノルウェーの高い場所に住んでいたのですが、ノルウェーのオスロの街を飛ぶ夢なども見ていました。
成長するにつれて空を飛ぶ夢はあまり見なくなりましたが、高校一年生くらいまでは空を飛ぶ夢を毎日のように見ていたので「何かしら空に関わる仕事をするのではないか」と漠然と考えていたんです。
そのため就職活動の際は航空会社などを受けていたのですが、残念ながらご縁がありませんでした。
結果としてSE(システムエンジニア)として就職するのですが、ずっとSEとして生きていくとは考えてはいなかったんです。
数年後、SEを退職する際に今後何がしたいのかを考えた時、旅が好きだったので旅をしながらできる仕事ないかなと思った時に「写真」を思いついたんです。
それまでは写真には興味がなかったんですが、写真ならば旅をしながら仕事になるのではないかと考えて動き始めました。
たまたま本屋で立ち読みした本でモーターパラグライダーの存在を知ったのもちょうどこの頃です。
モーターパラグライダーだったら空を飛びたいという夢も叶えられるし、写真と組み合わせればこれを仕事にできるかもしれない、と考えて空撮写真家を目指し始めたのが今の活動のきっかけです。
その後、栃木のパラグライダースクールに通うことになりました。
通常であれば先生とインストラクターと一緒に体験フライトを行うんですが、僕は体験フランとはせず最初から一人で飛ばせてもらいました。(笑)
その時に見た景色が小さい頃に見た夢の景色とリンクしていて、すごく感動したんです。これをやるために生まれてきたんじゃないかと思うほどでした。
この時に空撮写真家として生きていくことを確信しましたね。
(写真提供:山本直洋)
2 ニューヨークで学んだ撮影技法
SEを辞めて写真を始めようとした時に、ニューヨークなら何かしら学べるのではないかという考えから、ニューヨークに写真の勉強をしに行きました。
その時たまたまニューヨーク在住の黒人の方と出会って仲良くなったんですが、何の仕事をしているのか質問したところニューヨークのフォトスタジオでマネージャーをされている方だったことがわかりました。
写真を勉強したいのでそこで働かせてほしいとお願いしたところ快諾してくださったので、そこで働くことが決定しました。
さらにそのスタジオがニューヨークでも非常に大きい有名なスタジオで、そんなところで働くことができたのは非常に幸運でした。あの環境でカメラや機材の勉強ができたことは大きかったですね。
そのスタジオはドラマや映画、ファッション関係に強い場所だったこともあり、機材などには詳しくなったものの本来やりたい空撮とは強みが異なっていました。空撮がしたいという想いは変わらなかったため、撮影を学んだあとは日本に帰国して栃木のパラグライダースクールに通い始めます。
パラグライダーの練習をし始めてからすぐに仕事として撮影させていただける機会にも恵まれました。知床のホテルを空撮する仕事や、アーティストの動画撮影などを行ったのが最初の仕事だったと思います。
ですが当時は空撮だけでは生活することが難しかったので、ブライダル撮影や地上での撮影、アルバイトなどの掛け持ちなどをしながら活動をしていましたね。
今は空撮写真だけではなく動画やドローンの仕事なども行えるようになりました。
3 七大陸最高峰空撮プロジェクトの構想
山本氏が実際に使用している機材
七大陸最高峰空撮プロジェクト(Above the Seven Summits Project)を思いついたのが2017年あたりでした。
2015年にキヤノンギャラリーで「日本で地球を感じる写真」というテーマで展示会を行ったり「ナショナルジオグラフィック」やカメラ雑誌「アサヒカメラ」や「日本カメラ」などにも掲載してもらえたり、写真家として様々な機会に恵まれました。
写真を始めた当初からすると考えられないようなことなんですが、まだ写真家としてできることがあるんじゃないか、もう頭一つ抜きん出るにはどうすればいいか、というもどかしい気持ちも強くなってきたんです。
しばらくは日本国内で撮り溜めてたんですが、このタイミングで改めて海外での撮影も検討し始めました。
せっかく海外で撮影するなら何か面白い企画を考えたいなと思った時に、七大陸最高峰の空撮を思いついたんです。
実は学生時代にもいつかエベレストなどの山を登ってみたいという気持ちはありましたが、学生時代は特別な訓練をしているわけでもなく、スキルもあるわけでもないので夢で終わっていました。パラグライダーや撮影の技術を身につけた今だからこそチャレンジしてみようと思って動き始めたのがこの企画です。
第一弾として、2022年にキリマンジャロの空撮を行うことができました。
4 事故によるプロジェクトの延期
七大陸最高峰の企画を立案し、実現に向けて動くと決めてからは色々なことが順調に進んでいたんですが、キリマンジャロに行く2週間前に事故を起こしてしまったんです。
普通のエンジンだと6,000mの上空まで上昇できないため、パワーがあるエンジンが必要でした。そのため、パラグライダーのエンジンを改造していたんです。
6,000mまで上がれるエンジンは日本では前例がないため、エンジニア含めチーム全体で手探りの状態でした。地上でのテストでは良好な数字が出ていたんですが、実際に使用するとどうなるかわからない状態で。エンジニアにはあまり使用はおすすめはしないと言われていました。
当時は実現に向けて色々と順調に進んでいたこともあって、エンジニアの心配を押し切る形で飛行テストを行ったんです。
2019年に栃木の烏山で改造エンジンのテストをした際、高度2,000m時点でエンジンが故障したことで発火し、重い火傷を負ってしまいました。
助かったのが奇跡とも言える事故だったこともあり、しばらく入院していました。
支援してくださっている方々や家族にも迷惑をかけてしまったため、無理に進めてしまったのは反省点ですね。
本来は2019年にキリマンジャロへ挑む予定だったのですが、身体の状態的に挑戦が難しいため、1年間はしっかり身体を治すことに専念しようということで企画を延期しました。
さらにその時期に追い討ちをかけるようににコロナが流行ってしまったため、さらに挑戦が延期になってしまいました。
身体も治り、コロナも落ち着きを見せ始めた2022年に第一弾のプロジェクトに挑戦し、無事キリマンジャロの空撮を行うことができました。
5 冒険家ではなく、写真家として命を大切にすること
僕は冒険家ではなく、あくまで写真家なので、命の危険性がある場所に無理に挑戦することは避けなければいけないと感じました。
家族にはもちろん、支援してくださる方々にも迷惑をかけてしまうので、安全に無事に帰って来れることを最優先にしなくてはいけないと思っています。
今まではこの仕事やプロジェクトに命をかけているつもりでしたし、このプロジェクトには命をかける価値があるとは未だに思ってはいますが、あの事故以来「命をかける」なんてことは軽々しく口にできなくなったことも事実です。
僕の中での冒険家は「あえて困難な道を行く人」「前人未到の場所へ行くような人」のことを指すと思っています。危険を犯すことが前提になっているため、常に死と隣り合わせな状態です。
僕は写真家として「自分が納得できる写真を撮影する」ということが活動の大きな目的です。
冒険色の強いプロジェクトを行っているために冒険家に間違われることもありますが、僕自身は自分は写真家だと思っています。
6 七大陸最高峰空撮プロジェクト以降の展望
どこかに飛びに行くことは間違い無いですが、今興味があるのはカルステンツ(プンチャック・ジャヤ)ですね。
七大陸が終わったらオセアニア最高峰であるカルステンツに行ってみたいとは思っています。
他にもアイスランドやグリーンランド、アリューシャン列島など行きたいところはたくさんありますね(笑)
空撮にこだわらなくても、旅をしながら撮影するという活動は続けていくと思います。
7 愛用しているPOLEWARDSアイテム
僕が空撮する際にはPOLEWARDSと共同開発した製品のカメラバックと、モバイル&バッテリーケースを愛用しています。また登山に行くことも多いので、空撮以外のシーンでも活躍してくれていますね。
7-1 カメラバック
空撮の大変なポイントは、モーターパラグライダーの操作はもちろんなんですが、片手で撮影することなんです。基本的には片手でモーターパラグライダーを操縦し、片手で撮影する必要があります。
上空何千メートルの場所で撮影しなければならず、さらにシャッターチャンスは逃せない。
そのため、スムーズにカメラを格納しているカバンの口が開く製品があればいいなと思っていました。POLEWARDSの製品はそのような悩みを解決してくれるので、重宝しています。
製品の特徴はワンタッチで開け閉めができることですね。力を入れることなく、片手で操作ができるので女性でも扱いやすいんじゃないかな。
ほとんどのカメラバックって、開け口がチャックになっているのが一般的なんですよね。それを片手で開けてカメラを取り出すってなると、撮りたいタイミングを逃すこともあったんです。
カメラやレンズの取り出しにとても便利なので、私のような空撮家はもちろんですが、登山やアウトドアでの撮影を楽しまれる方にもピッタリだと思います。
最初は少しコツがいりますが、慣れてくれば使い勝手が非常にいいため、今では愛用しています。
7-2 モバイル&バッテリーケース
また、モバイルとバッテリーを入れるケースもPOLEWARDSと共同開発しました。
空撮する時は、ログを取ったりGPS機能で自分が何処を飛んでいるのかを把握するためにスマホの専用アプリを使用しています。アプリを常時使用するとなるとバッテリーがすぐに無くなってしまうため、充電しながら空撮をしています。
モバイルケースとバッテリーケースが一体化しており、両手が塞がらずに操作しやすいこともポイントでした。使い勝手がよく登山でも重宝しています。登山時は空撮時とは異なりMAPアプリを起動させて使っています。
最後に
今回はモーターパラグライダーによる空撮活動を行っている写真家、山本直洋氏の取り組みなどについてお話を伺いました。
これからも数々の「地球を感じる」作品を生み出してくれるであろう山本氏の取り組み、これからの活動にも注目が集まります。
山本直洋氏と七大陸最高峰空撮プロジェクトの最新情報は、山本さんの公式サイトと公式YouTubeチャンネルでも発信されています。
■山本直洋さんの公式サイト http://www.naohphoto.com
■山本直洋さんの公式YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/c/NaohPhoto